はじめに
前回は、過去の取引関係などを背景に取得した非上場企業の少数株式が、なぜ長年保有され続けるのかについて解説しました。
では、保有意義が薄れた少数株式を整理しようと考えた場合、売却はすぐに進むのでしょうか。
同じ非上場株式でも、会社の過半数(50%超)を保有している場合と、少数株式(50%未満で支配権を持たない比率)のみを保有している場合とでは、売却の進め方が大きく異なります。
過半数を保有していれば、株主自身が会社の意思決定を行い、会社全体の売却を進めることができます。一方、少数株主は会社の意思決定を左右できる立場にはなく、多くの場合、自らの意思だけで売却を進めることは難しいです。
また、上場株式のように市場を通じて売却することもできません。そのため、まずは発行会社に買取りの相談することが多いものの、発行会社が必ず買い取ってくれるとは限りません。仮に、買取りの意向が示された場合でも、売り手が想定していた価格と大きな隔たりが生じることがあります。
さらに、発行会社以外への売却を検討しようとしても、どのように買い手を探せばよいのか分からないという問題もあります。
このように、非上場企業の少数株式の売却が簡単に進まない背景には、主に次の3つの壁があります。
- (1)発行会社との調整
- (2)売却価格
- (3)買い手探し
今回は、この3つの観点から、過去の取引関係をきっかけに取得した非上場企業の少数株式を売却するときに直面しやすい問題を整理します。
目次
1. 発行会社にも納得してもらえる売却先を探す必要がある
法人株主が非上場企業の少数株式を売却しようと考えたとき、まずは発行会社に相談することが一般的です。
法人株主としては、過去の取引関係や出資の経緯もあるため、可能であれば発行会社に株式を買い取ってもらい、円満に保有関係を整理したいと考えるためです。
しかし、発行会社に買取りの意向がなかったり、価格などの条件が折り合わなかったりすることがあります。その場合、発行会社以外への売却を検討することになりますが、売却先は誰でもよいわけではありません。
現在も取引が続いている場合には、売却の進め方次第で、両社の関係にネガティブな影響が生じる可能性があります。また、すでに取引が終了している場合でも、法人としての信用や評判を考えれば、発行会社の意向をまったく考慮せずに無理やり売却を進めることは現実的ではありません。
例えば、発行会社に株式を買い取るだけの資金的な余裕がないことを分かったうえで、発行会社が望まない第三者への売却を強引に進めたと受け止められれば、後になって法人株主の評判に影響する可能性があります(譲渡制限株式では、譲渡承認請求を拒否した場合、発行会社は自社または自社が指定する第三者で株式を買い取らなければなりません。そのため、買い取り資金の確保が難しい発行会社では、第三者への譲渡を承認せざるを得ない状況に追い込まれることもあります)。
発行会社による買取りが難しい場合には、発行会社の意向を無視して売却を進めたというレピュテーションリスクを避けるためにも、発行会社にも株主として新たに受け入れてもらえる買い手を探す必要があります。
そして、買い手候補が見つかった後も、発行会社にその候補を紹介し、どのような会社なのか、その会社はなぜ株式の取得を希望しているのかなどを説明したうえで、買い手候補との面談機会を設ける必要があります。
発行会社にとって、新たな株主を迎えることは、今後の株主構成に関わる重要な問題です。そのため、買い手候補との面談に至るまでに、発行会社内での検討に時間を要したり、説明や連絡を重ねたりすることも必要です。
発行会社との関係に配慮しながら、新たな株主候補について理解を得ていく必要があることが、非上場企業の少数株式の売却を難しくする1つ目の壁です。
2. 売り手と発行会社の間で、価格の考え方が一致しない
仮に、発行会社が株式の買取りに応じる場合でも、すぐに売却が成立するとは限りません。次に問題となるのが、売却価格です。
上場株式には、証券市場で日々形成される株価があります。一方、非上場株式には市場価格がなく、誰にとっても共通する一つの価格が、あらかじめ決まっているわけではありません。
そのため、発行会社と法人株主との間で、株式の価格に対する考え方や、その背景が大きく異なることがあります。
発行会社からは、法人株主が出資した当時の金額や、帳簿に計上されている金額を基準として、いわゆる「簿価」での買取りを提示されることがあります。
一方、法人株主としては、出資後に発行会社が成長し、利益や純資産を積み上げているのであれば、その成長を反映した現在の価値、つまり「時価」で売却したいと考えます。
たとえば、数十年前に1,000万円で取得した株式について、その後、発行会社の事業規模や業績、財務内容が大きく成長しているにもかかわらず、現在も取得当時と同じ1,000万円の価値(=簿価)しかないと発行会社が主張することには、中立的に見ても無理があります。
ただ、発行会社としても、買取りに必要な資金や、他の株主との公平性、今後同様の申し出があった場合への影響などを考えれば、できるだけ低い金額で買い取りたいという意向を持つこと自体は理解できます。
このように、発行会社には買取り金額を抑えたい事情があり、法人株主には会社の成長を反映した現在の価値で売却したいという考えがあります。
非上場企業の株式には共通の市場価格がないからこそ、両者の価格認識や背景に大きな隔たりが生じ、そのことが売却を難しくする要因となります。これが、非上場企業の少数株式の売却を難しくする2つ目の壁です。
3. 発行会社以外の買い手を見つけることが難しい
発行会社による買取りが難しい場合や、価格などの条件が折り合わない場合には、発行会社以外への売却を検討することになります。
しかし、非上場企業の少数株式を買いたいと考える企業や投資家は、決して多くありません。
一般的なM&Aでは、買い手は対象会社の過半数、場合によっては全株式を取得し、経営権を持つことを前提としています。一方、少数株式を取得しても、買い手が単独で経営方針を決めることはできません。
また、非上場企業には上場企業と同じレベルの情報開示義務がないため、買い手が株式の価値や取得後のリスクを検討するために必要な情報を、株式取得前に十分に得られないこともあります。
さらに、配当が行われるとは限らず、取得した株式を将来どのように売却するのかも、あらかじめ見通すことは容易ではありません。
そのため、少数株式の買い手には、単に株式価値だけを見るのではなく、
- ・なぜ少数株主として株式を取得するのか
- ・発行会社と事業面を含め、どのような関係を築けるのか
- ・希望する事業提携が、少数株主という立場でも実現できるのか
- ・どの程度の期間、株式を保有するのか
- ・将来どのような形で株式を引き継いでいくのか
- ・取得した株式を将来売却できない場合のリスクは許容できるのか
などの点まで考えることが求められます。
そして、法人株主が自力でこうした買い手を探そうとしても、誰に相談すればよいのか、どのような企業や投資家が少数株式の取得を検討してくれるのか分からないことも少なくありません。
発行会社にも新たな株主として受け入れてもらえ、少数株式を取得する目的と保有方針を持った買い手を見つける必要があることが、非上場企業の少数株式の売却を難しくする3つ目の壁です。
4. 3つの壁は、それぞれ別のものではない
ここまで、「発行会社との調整」「売却価格」「買い手探し」という3つの壁を見てきました。
実際の売却では、これらを一つずつ順番に解決できるとは限りません。なぜなら、それぞれが相互に関係しているからです。
たとえば、発行会社に新たな株主として受け入れてもらえる買い手が見つかったとしても、その買い手が売り手の希望する価格を提示するとは限りません。
一方、売り手の希望する価格で購入する買い手が見つかっても、発行会社がその買い手を新たな株主として受け入れるとは限りません。
もちろん、発行会社の理解が得られない場合でも、実際に株式を取得する意思のある買い手への売却を前提として、譲渡承認請求を行うことはできます。仮にその請求が否認された場合には、会社法上の手続き(非訟手続)を通じて、法的に売却を実現できる可能性があります。
しかし、多くの法人株主、特に上場企業などでは、価格決定の手続きには相応の時間や費用、社内負担が伴います。また、発行会社との関係や自社の信用・評判への影響も考慮し、できる限り当事者間で解決したいと考えるケースが少なくありません。
そのため、法的に売却できるかどうかだけではなく、発行会社にも新たな株主として受け入れてもらえる買い手を探すことが重要になります。
また、買い手も、発行会社との関係や取得後の事業連携について見通しが立たなければ、価格を含む具体的な条件を提示することは容易ではありません。
つまり、非上場企業の少数株式を円満に売却するためには、
- ・少数株主として株式を取得する意義を見い出せる買い手を見つけられるか
- ・売り手と買い手の間で価格などの条件が折り合うか
- ・発行会社が新たな株主候補を受け入れられるか
という3つの条件を、並行して調整する必要があります。
どれか一つだけを解決すれば売却できるわけではありません。売り手・発行会社・買い手、それぞれの意向を踏まえながら調整を進める必要があることが、非上場企業の少数株式の売却を一層難しくしています。
5. まとめ
過去の取引関係をきっかけに取得した非上場企業の少数株式は、売却を決めたからといって、すぐに売却できるものではありません。
法人株主が売却を考えた場合、まずは発行会社に買取りを相談するのが一般的です。しかし、発行会社に買取りの意向がなかったり、価格などの条件が折り合わなかったりすることがあります。
その場合には、発行会社以外への売却を検討することになります。
ただし、第三者へ売却する場合も、単に買い手を見つければよいわけではありません。発行会社にも新たな株主として受け入れてもらえる相手であり、少数株式を取得する目的や保有方針を持った買い手を探す必要があります。さらに、売り手と買い手との間で、価格などの条件が折り合わなければなりません。
このように、非上場企業の少数株式の売却には、大きく分けて、
- ・発行会社に買い取ってもらう方法
- ・発行会社以外の第三者へ売却する方法
という二つの選択肢があります。
発行会社による買取りでは、発行会社と法人株主との価格調整が中心となります。一方、第三者への売却では、法人株主と買い手との条件調整に加え、発行会社にも新たな株主候補について理解してもらう必要があります。
どちらの方法を選ぶとしても、売り手・発行会社・買い手、それぞれの意向を踏まえながら、売却全体の進め方を組み立てることが重要です。
次回の第4回では、法人株主が発行会社に株式の買取りを相談した際に、なぜ「簿価でしか買い取れない」と言われることがあるのか、発行会社側の事情から考えます。
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記事協力
幸田博人
1982年一橋大学経済学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)入行、みずほ証券総合企画部長等を経て、2009年より執行役員、常務執行役員企画グループ長、国内営業部門長を経て、2016年より代表取締役副社長、2018年6月みずほ証券退任。現在は、株式会社イノベーション・インテリジェンス研究所代表取締役社長、リーディング・スキル・テスト株式会社代表取締役社長、一橋大学大学院経営管理研究科客員教授、京都大学経営管理大学院特別教授、SBI大学院大学経営管理研究科教授、株式会社産業革新投資機構社外取締役等を務めている。
主な著書
『プライベート・エクイティ投資の実践』中央経済社(幸田博人 編著)
『日本企業変革のためのコーポレートファイナンス講義』金融財政事情研究会(幸田博人 編著)
『オーナー経営はなぜ強いのか?』中央経済社(藤田勉/幸田博人 著)
『日本経済再生 25年の計』日本経済新聞出版社(池尾和人/幸田博人 編著)















