【法人株主向け 6回シリーズ】
第1回 商社やメーカーなどに残る「過去の取引関係をきっかけに取得した非上場企業の少数株式」とは
はじめに
「昔、取引先に出資した株式が今も会社に残っている」
「取引は何年も前に終わったが、株式だけは売却せずに保有したままになっている」
このような状況に心当たりのある企業も少なくないのではないでしょうか。
高度経済成長期から平成にかけては、取引先との関係強化や安定した取引の実現を目的として、商社やメーカーなどの事業会社が非上場企業へ出資(多くの場合、少数株式)することは、決して珍しいことではありませんでした。
その後、担当者の異動や退職、経営陣の交代、さらには取引関係の変化を経て、出資当時の経緯や保有目的が十分に引き継がれないまま、非上場企業の少数株式だけが会社に残り続けているケースが見られます。
本シリーズでは、このような過去の取引関係を背景に保有する非上場企業の少数株式に焦点を当て、その成り立ちや特徴、企業が直面する課題、そして見直しを考える際のポイントについて解説します。
第1回は、「商社やメーカーなどに残る『過去の取引関係をきっかけに取得した非上場企業の少数株式』」をテーマに、このような株式が生まれた背景についてご紹介します。
目次
1. なぜ企業は非上場企業へ出資したのか
高度経済成長期から平成にかけて、日本企業では、取引先との長期的な関係を重視する経営が一般的でした。
そのため、商社やメーカーなどの事業会社が、取引先との関係強化や事業の発展を目的として、非上場企業へ出資することも広く行われていました。
当時は、「重要な取引先だから出資する」「今後も長く付き合っていく会社だから株主になる」という考え方は、決して特別なものではありませんでした。
こうした出資は、株価の値上がりによる利益を期待するというよりも、取引先との信頼関係を深め、双方の事業を発展させることを目的としたものでした。
つまり、株式の取得は単なる投資ではなく、事業上のパートナーシップを支える手段の一つだったのです。
- 例えば、
- ・主要な仕入先との安定した取引関係を築くため
- ・販売代理店や特約店との関係を強化するため
- ・地域の有力企業との協力関係を深めるため
- ・取引先の設備投資や事業拡大を資本面から支援するため
- ・長期的なパートナーシップを構築するため
- といった目的で出資が行われていました。
このように、事業会社が非上場企業の少数株主となることは、当時の経営環境の中では、ごく自然な経営判断だったのです。
2. 時代が変わると、株式だけが残る
こうして取得された非上場企業の少数株式も、年月の経過とともに、その意味合いが変化していきます。
取引先との関係が縮小・終了したり、担当者や経営陣が交代したりすることで、出資当時の経緯や目的が十分に引き継がれないままになってしまうことがあります。
その結果、
「なぜこの会社の株式を保有しているのだろう」
「いつ、どのような経緯で取得したのだろう」
「今も保有し続ける意味はあるのだろうか」
といった疑問を持ちながらも、そのまま保有が続いているケースは少なくありません。
また、非上場企業の少数株式は、本業に直ちに大きな影響を与えるものではありません。
一方で、発行会社以外の買い手を見つけることは容易ではなく、発行会社との調整にも時間と労力を要します。そのため、保有意義の見直しや売却の検討は後回しになりがちです。
そうこうしているうちに、また担当者や経営陣が交代し、さらに年月が経過することで、株式だけが会社に残り続けるケースも少なくありません。
3. 実際に存在する「過去の取引関係をきっかけに取得した非上場株式」
こうした状況は、決して一部の企業だけに見られるものではありません。
実際に当社でも、過去の取引関係を背景に、事業会社が長年保有してきた非上場企業の少数株式について、ご相談をいただいたことがあります。
出資当時は、取引関係の強化を目的とした合理的な経営判断でした。しかし、年月の経過とともに担当者や経営陣が交代し、さらに取引関係も終了したことで、かつて「重要な取引先」だった相手先の株式は、「会社が保有する資産」として管理されるようになっていきました。
その結果、株主側は資産として適正な価格での売却を希望し、一方で発行会社側はできるだけ低い価格で買い取りたいと考えるなど、双方の考え方に隔たりが生じ、話し合いが進まなくなっていました。
このようなケースは、商社に限らず、メーカーや卸売業、建設会社など、長年にわたり取引先との関係を築いてきた事業会社でも見られます。
4. 今、改めて保有意義を考える
もちろん、過去の取引関係をきっかけに取得した非上場企業の少数株式を保有し続けること自体が問題というわけではありません。
現在も事業上の重要な関係が続いているのであれば、その株式には引き続き保有する意義があります。また、今後の事業戦略や資本政策を踏まえ、保有を継続することが最適な判断となるケースも少なくありません。
一方で、取引関係や出資当時の目的が大きく変化している場合には、「現在も保有し続ける意義があるのか」という視点で改めて考えてみることも重要です。
株式を保有し続けるという判断にも、見直すという判断にも、それぞれに合理性があります。大切なのは、「過去に取得したから保有し続ける」のではなく、「現在の経営にとってどのような意味を持つ株式なのか」という視点で考えることではないでしょうか。
5. まとめ
商社やメーカーなどの事業会社が、取引先との関係強化や事業の発展を目的として非上場企業へ出資することは、かつては決して珍しいことではありませんでした。
当時は合理的な経営判断に基づいて取得された株式であっても、担当者や経営陣の交代、取引関係の変化などを経る中で、出資当時の経緯や現在も保有している目的が分かりにくくなっているケースがあります。
しかし、保有目的が明確でなくなったからといって、直ちに株式の整理が進むわけではありません。
事業会社にとっては、当然ながら本業の方が優先順位は高くなります。また、非上場企業の少数株式を売却するためには、買い手の探索や発行会社との調整などに時間と労力を要します。
そのため、株式の整理は後回しになりやすく、取引関係が終了した後も、株式だけが何十年にわたって会社に残り続けることがあります。
次回の第2回では、「取引は終わったのに、株式だけが残る理由」をテーマに、非上場企業の少数株式が何十年も保有され続ける背景について、詳しく解説します。
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記事協力
幸田博人
1982年一橋大学経済学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)入行、みずほ証券総合企画部長等を経て、2009年より執行役員、常務執行役員企画グループ長、国内営業部門長を経て、2016年より代表取締役副社長、2018年6月みずほ証券退任。現在は、株式会社イノベーション・インテリジェンス研究所代表取締役社長、リーディング・スキル・テスト株式会社代表取締役社長、一橋大学大学院経営管理研究科客員教授、京都大学経営管理大学院特別教授、SBI大学院大学経営管理研究科教授、株式会社産業革新投資機構社外取締役等を務めている。
主な著書
『プライベート・エクイティ投資の実践』中央経済社(幸田博人 編著)
『日本企業変革のためのコーポレートファイナンス講義』金融財政事情研究会(幸田博人 編著)
『オーナー経営はなぜ強いのか?』中央経済社(藤田勉/幸田博人 著)
『日本経済再生 25年の計』日本経済新聞出版社(池尾和人/幸田博人 編著)













