非上場企業の少数株式の流動化支援、株主構成・資本政策の課題解決

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非上場企業の少数株式の流動化支援、株主構成・資本政策の課題解決

2026年7月29日

【法人株主向け 6回シリーズ】
第5回 法人株主は、なぜ「簿価では売れない」と考えるのか

はじめに

前回は、発行会社が法人株主から株式の買取りを求められた際に、「簿価で買い取りたい」と考える理由について説明しました。

一方、法人株主は、発行会社から簿価を基準とした価格を提示されても、そのまま受け入れられるとは限りません。

法人が保有する株式は、「会社の資産」です。そのため、売却する際には、「なぜ売却するのか」だけでなく、「なぜその価格で売却するのか」についても、社内で説明する必要があります。

法人株主が「簿価では売れない」と考えるのは、単に少しでも高く売りたいからではありません。現在の株式価値を確認し、社内で合理的に説明できる価格で売却する必要があるためです。

今回は、法人株主が、簿価を基準とした価格では売却できないと考える背景について説明します。

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1. 簿価は、現在の株式価値を示すものではない

「簿価」とは、法人株主が株式を取得した際の金額などを基礎として、帳簿に記録している会計上の金額です。

過去の取引関係を背景に取得した株式の中には、取得から数十年が経過しているものもあります。その間に、発行会社の事業規模や業績、資産内容が大きく変化していることも少なくありません。

例えば、発行会社が利益を積み上げ、現預金や不動産などの資産を増やしている場合には、現在の株式価値が取得当時の簿価を上回っている可能性があります。反対に、業績や財務内容が悪化していれば、簿価を下回ることもあります。

このように、簿価は法人株主の帳簿に記録された会計上の金額であり、現在の株式価値や実際の売却価格と一致するとは限りません。

そのため、法人株主としては、発行会社から簿価を基準とした価格を提示されても、それだけを根拠として売却を決定することは難しくなります。

2. 法人には、売却価格について社内で説明する必要がある

法人が保有する株式は、担当者個人の財産ではなく、会社の資産です。そのため、担当者の判断だけで売却価格を決められるものではありません。

実際に売却を進める際には、上司や経営陣、経理・財務部門などに対して、

  • 「なぜ株式を売却するのか」
  • 「どのような根拠で株式価値を考えたのか」
  • 「なぜその価格での売却が妥当なのか」

などを説明し、売却に向けた社内決裁を得る必要があります。

発行会社から提示された価格であっても、「発行会社がこの価格を提示したから」という理由だけでは、売却価格の妥当性を十分に説明できません。

法人株主にとって重要なのは、必ずしも最も高い価格で売却することではありません。発行会社の業績や資産内容などを確認したうえで、社内で合理的に説明できる根拠のある価格で売却することです。

3. 保有する意味がなくなっても、株式の価値までなくなるわけではない

過去の取引関係を背景に取得した株式は、取引の縮小や終了によって、保有し続ける意味が薄れていることがあります。

しかし、株式を保有する意味がなくなったことと、その株式の経済的な価値は別の問題です。

取引関係がすでに終了していたとしても、発行会社が利益を積み上げ、事業や資産を形成していれば、株式には相応の価値がある可能性があります。

法人株主にとって、保有する意味がなくなったからといって、現在の株式価値を確認せず、低い価格で売却してよい理由にはなりません。

そのため、保有する意味がなくなった株式であっても、法人株主は現在の株式価値を確認したうえで、売却価格を検討する必要があります。

4. 非上場株式の「時価」は一つではない

もっとも、非上場株式には、上場株式のように市場で日々形成される株価がありません。そのため、あらかじめ誰にとっても共通する「時価」が存在するわけではありません。

株式価値は、発行会社の業績や資産内容だけでなく、保有する議決権割合、配当の状況、少数株主として株式を保有することの制約、買い手が株式を取得する目的など、さまざまな要素によって左右されます。また、どのような考え方や方法で株式価値を算定するかによっても、算定結果が異なることがあります。

そのため、法人株主が求める「時価」とは、売り手が一方的に希望する価格ではなく、現在の発行会社の状況や株式の内容を踏まえ、合理的な根拠に基づいて算定された価格です。

法人株主としては、合理的な根拠に基づく価格でなければ、社内に対して売却価格の根拠を説明し、承認を得ることは難しくなります。

5. まとめ

法人株主が「簿価では売れない」と考えるのは、単に少しでも高い価格で売却したいからではありません。

法人が保有する株式は会社の資産であり、売却する際には、なぜその価格で売却するのかについて、社内で合理的に説明し、承認を得る必要があるからです。

また、簿価は法人株主の帳簿に記録された会計上の金額であり、現在の株式価値を示すものではありません。

ただ、非上場株式には市場で形成される株価がないため、あらかじめ一つの「時価」が決まっているわけでもありません。そのため、法人株主は、発行会社の業績や資産内容、株式の内容などを踏まえ、合理的な根拠に基づく価格を検討することになります。

法人株主が「簿価では売れない」と考える背景には、このような社内での説明責任と意思決定のプロセスがあるためです。

次回の第6回では、発行会社と法人株主の価格に対する考え方が異なる中で、発行会社との話し合いを止めずに売却の可能性を探るためのポイントについて説明します。

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記事協力

幸田博人

1982年一橋大学経済学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)入行、みずほ証券総合企画部長等を経て、2009年より執行役員、常務執行役員企画グループ長、国内営業部門長を経て、2016年より代表取締役副社長、2018年6月みずほ証券退任。現在は、株式会社イノベーション・インテリジェンス研究所代表取締役社長、リーディング・スキル・テスト株式会社代表取締役社長、一橋大学大学院経営管理研究科客員教授、京都大学経営管理大学院特別教授、SBI大学院大学経営管理研究科教授、株式会社産業革新投資機構社外取締役等を務めている。

主な著書

『プライベート・エクイティ投資の実践』中央経済社(幸田博人 編著)
『日本企業変革のためのコーポレートファイナンス講義』金融財政事情研究会(幸田博人 編著)
『オーナー経営はなぜ強いのか?』中央経済社(藤田勉/幸田博人 著)
『日本経済再生 25年の計』日本経済新聞出版社(池尾和人/幸田博人 編著)

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