はじめに
- 「非上場株式を売却したいが、どうすればよいか分からない」
- 「会社に買い取りを相談したが、応じてもらえなかった」
- 「提示された価格が妥当なのか判断できない」
非上場企業の少数株式を保有している方からは、このような悩みを聞くことがあります。
実際、日本成長支援パートナーズが非上場企業の少数株式の保有経験者326名を対象に実施したアンケート調査では、56.7%が非上場株式の売却について「難しい」と回答しました。
では、なぜ非上場株式の売却は難しいのでしょうか。
その背景には、単に「証券取引所で売買できない」ということだけではなく、買い手を見つけにくいこと、売却価格の妥当性を判断しにくいこと、発行会社との調整が必要になることなど、いくつもの要因があります。
本記事では、非上場株式、特に少数株式の売却が難しいといわれる主な理由について解説します。
1.非上場株式には取引市場がない
上場株式であれば、証券取引所を通じて日々売買が行われています。
市場で株価が形成されているため、現在の株価を確認したうえで、証券会社を通じて売却することができます。
一方、非上場株式には、上場株式のように一般の投資家が自由に売買できる市場がありません。
そのため、保有している株式を売却したいと思っても、売却注文を出せば買い手が見つかるというものではありません。
この「市場がない」という特徴は、さまざまな問題につながります。
例えば、
- ・売却価格の目安が分かりにくい
- ・買い手候補を探す必要がある
- ・買い手と個別に条件を調整する必要がある
- ・売却に必要な手続きを自分で確認しなければならない
といった問題です。
つまり、非上場株式では「いくらで売るのか」だけではなく、「誰に、どのような方法で売るのか」から考える必要があります。
2.買い手を見つけることが難しい
非上場株式を売却するためには、まず買い手を見つける必要があります。
買い手候補としては、主に次のような相手が考えられます。
- ・発行会社
- ・経営者
- ・既存株主
- ・外部の第三者
しかし、これらの候補が必ず買い取りに応じてくれるわけではありません。
例えば、発行会社が自己株式として買い取るためには、会社法上の手続きや分配可能額などの制約があります。
経営者や既存株主についても、株式を取得する意思がなかったり、取得するための資金を用意できなかったりする場合があります。
では、外部の第三者であれば簡単に売却できるかというと、そうとも限りません。
特に少数株式の場合、株式を取得しても経営権を得られないため、100%の株式を取得する一般的なM&Aとは買い手の考え方が異なります。
そのため、外部の買い手を探す場合には、発行会社の事業内容や財務状況、株主構成、配当実績、保有割合などを踏まえ、「どのような買い手であれば、この株式を取得する可能性があるのか」を考える必要があります。
非上場株式の売却では、「売りたい人」と「買いたい人」が自然に出会う市場がないからこそ、買い手探索そのものが大きな課題となります。
3.売却価格の妥当性を判断しにくい
非上場株式の売却で、多くの方が悩むのが価格です。
上場株式であれば市場価格がありますが、非上場株式には日々公表される株価がありません。
そのため、売却価格を検討する際には、会社の財務状況、収益力、純資産、配当状況、将来性、保有割合、株主構成など、さまざまな要素を考える必要があります。
さらに注意したいのは、「非上場株式の価格には一つの絶対的な正解があるわけではない」という点です。
例えば、相続や贈与の際に用いられる税務上の評価額と、第三者間で実際に売買するときの価格は、同じになるとは限りません。
また、会社全体を取得するM&Aと、経営権を伴わない少数株式の売買でも、価格に対する考え方は異なります。
そのため、発行会社や経営者から買い取り価格を提示されたとしても、
- 「この価格は妥当なのか」
- 「もっと高い価値があるのではないか」
- 「他の買い手であれば違う価格になる可能性はないのか」
と悩むことがあります。
一方で、売却先が見つからなければ、理論上の評価額がそのまま実際の売却価格になるとも限りません。
非上場株式では、「株式をどのように評価するか」と「実際にいくらで売却できるか」を分けて考えることが重要です。
4.譲渡制限が付いていることが一般的
非上場会社の株式には、譲渡制限が付いていることが一般的です。
譲渡制限株式を第三者に売却する場合には、原則として発行会社の承認が必要です。
そのため、外部の買い手が見つかったとしても、それだけで売却が完了するわけではありません。
定款などを確認したうえで、必要に応じて発行会社に対して譲渡承認を請求することになります。
発行会社が譲渡を承認すれば、買い手への売却を進めることができます。
一方、発行会社が譲渡を承認しない場合でも、一定の手続きをとることで、発行会社または指定買取人による買い取りへ進む場合があります。
したがって、「譲渡制限がある=売却できない」というわけではありません。
加えて、譲渡制限は、売り手だけでなく、買い手にとっても大きな不確実性となります。
特に少数株式の場合、発行会社にとっては、それまで関係のなかった第三者が新たな少数株主となるため、譲渡を承認しない可能性もあります。
そのため、買い手からすれば、少数株式であることに加え、「そもそも発行会社から譲渡承認を得られるのか」という不確実性を抱えながら、取得を検討することになります。
つまり、買い手からすれば、検討にかけた時間や労力が結果的に徒労に終わる可能性があるということです。
こうした不確実性があるため、外部の第三者にとっては、非上場企業の少数株式について、本格的な取得検討に入りにくいという側面があります。
発行会社の承認や会社法上の手続きが必要になることに加え、こうした買い手側の事情も、非上場株式の買い手を見つけにくくしている要因の一つです。
5.売却に必要な情報を十分に持っていないことがある
非上場株式を外部の第三者に売却する場合、買い手は、発行会社の事業内容や財務状況などを確認したうえで、株式を取得するかどうかを判断します。
そのため、売却を進めるには、決算書をはじめ、発行会社に関する一定の情報が必要になります。
しかし、経営に関与していない少数株主の場合、こうした情報を十分に持っていないことがあります。
特に、相続や贈与によって株式を取得した場合や、退職後も以前勤務していた会社の株式を保有している場合などは、発行会社との接点が少なく、会社の最新の状況を把握していないこともあります。
その場合、外部の買い手候補が見つかったとしても、検討に必要な情報を十分に提供できず、具体的な検討を進めてもらえない可能性があります。
そこで、必要に応じて発行会社に事情を説明し、売却の検討に必要な情報の提供について相談することになります。
もっとも、発行会社が第三者への株式売却に消極的な場合などには、必要な情報を円滑に得られるとは限りません。
このように、非上場株式の売却では、株主自身が保有している情報だけでは十分ではなく、買い手の検討を進めるために発行会社との調整が必要になることがあります。
これも、非上場株式の売却を難しくする要因の一つです。
6.何から始めればよいか分からない
もう一つの難しさが、「売却したいと思っても、何から始めればよいか分からない」という問題です。
例えば、
- 「まず発行会社に相談するべきなのか」
- 「先に株価を調べるべきなのか」
- 「外部の買い手を探すことはできるのか」
- 「弁護士や税理士に相談するべきなのか」
など、最初の段階で迷うことがあります。
非上場株式の売却には、株価評価、税務、法務、買い手探索、発行会社との調整など、複数の論点が関係します。
また、株主が置かれている状況によって、必要な対応も変わります。
例えば、発行会社が買い取りに前向きなケースと、発行会社が買い取りを拒否しているケースでは、検討すべき選択肢は異なります。
そのため、最初から特定の方法に決めるのではなく、
- ・株式を取得した経緯
- ・保有割合
- ・発行会社との関係
- ・売却を希望する理由
- ・これまで会社と話し合った内容
- ・考えられる買い手候補
など、現在の状況を整理することが重要です。
7.まとめ
非上場株式の売却が難しいといわれる背景には、単に「取引市場がない」ということだけではなく、さまざまな要因があります。
本記事で見てきたように、
- ・上場株式のような取引市場がないことに加えて
- ・買い手を見つけることが難しい
- ・売却価格の妥当性を判断しにくい
- ・譲渡制限が付いていることが多い
- ・売却に必要な情報を十分に持っていないことがある
- ・何から始めればよいか分からない
といった複数の課題があります。
特に少数株主の場合、経営に関与しておらず、発行会社に関する情報を十分に持っていないこともあります。
また、外部の買い手を探そうとしても、譲渡制限があることなどから、買い手側が取得を検討しにくいという問題もあります。
こうした複数の課題が重なることが、非上場企業の少数株式の売却を難しくしていると考えられます。
ただし、「売却が難しい」ということと、「売却できない」ということは同じではありません。
発行会社による買い取りだけでなく、経営者や既存株主、外部の第三者への売却など、状況によって検討できる方法は異なります。
非上場株式の売却を検討する際には、まず自分が置かれている状況を整理したうえで、どのような売却方法が考えられるのかを検討することが重要です。
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記事協力
幸田博人
1982年一橋大学経済学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)入行、みずほ証券総合企画部長等を経て、2009年より執行役員、常務執行役員企画グループ長、国内営業部門長を経て、2016年より代表取締役副社長、2018年6月みずほ証券退任。現在は、株式会社イノベーション・インテリジェンス研究所代表取締役社長、リーディング・スキル・テスト株式会社代表取締役社長、一橋大学大学院経営管理研究科客員教授、京都大学経営管理大学院特別教授、SBI大学院大学経営管理研究科教授、株式会社産業革新投資機構社外取締役等を務めている。
主な著書
『プライベート・エクイティ投資の実践』中央経済社(幸田博人 編著)
『日本企業変革のためのコーポレートファイナンス講義』金融財政事情研究会(幸田博人 編著)
『オーナー経営はなぜ強いのか?』中央経済社(藤田勉/幸田博人 著)
『日本経済再生 25年の計』日本経済新聞出版社(池尾和人/幸田博人 編著)



















