非上場企業の少数株式の流動化支援、株主構成・資本政策の課題解決

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非上場企業の少数株式の流動化支援、株主構成・資本政策の課題解決

2023年3月2日

譲渡制限株式の売却方法

本来、株式は自由に譲渡できるものですが、多くの非上場会社では、自社の株式譲渡に際し、「会社の承認を得なければいけない」旨の規定を定款に定めています。今回は、このように譲渡制限が設けられている株式(譲渡制限株式)の売却方法について解説します。

1 株式譲渡自由の原則と譲渡制限株式

株主は、原則として、株式を自由に譲渡することができます。これを「株式譲渡自由の原則」と言います。

会社法127条(株式の譲渡)

株主は、その有する株式を譲渡することができる。

この原則により株主は、保有している株式を自由に譲渡し、株式を引き受ける際に出資した資金(投下資本)を回収することができます。仮に相手が全くの第三者であっても、株主は、その保有する株式について、自由に譲渡することが可能です。

ただし、株式譲渡自由の原則には例外があり、株式譲渡について会社の承認を要することを定款で定めることができます(会社法107条1項1号、108条1項4号)。このような株式のことを「譲渡制限株式(英語:Share with Restriction on Transfer)」と呼んでいます。

会社法107条1項1号(株式の内容についての特別の定め)

譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。

会社法108条1項4号(異なる種類の株式)

譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。

会社法2条17号(定義)

譲渡制限株式 株式会社がその発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定めを設けている場合における当該株式をいう。

2 譲渡制限株式のメリット

株式に譲渡制限を設けるメリットは、「好ましくない第三者が経営に参画することを防止する」ことです。会社法は、原則として株式を自由に譲渡することを認めていますが、例えば中小企業やスタートアップの中には、規模の小さい会社も多く、少ない資本で株式を取得することができます。つまり、簡単に買収されてしまうリスクを孕んでいます。

そこで、株式に譲渡制限を設けることで、会社運営にとって好ましくない者(例えば、会社に全く関係のない第三者や対立関係にある者など)が、株主総会や取締役会などの承認なしに株主になることを防ぐことができ、会社運営の安定性を確保することが可能になります。

3 譲渡制限株式の売却方法

3-1 譲渡制限株式の売却先

譲渡制限株式の売却先は、下記3者のいずれかが想定されています。

①当初、譲渡先として意図した者
②会社自身
③会社が指定した者(指定買取人)

最終的に3者のうち誰に売却することになるかは、会社側が譲渡を承認するか否かにより、変わってきます。

3-2 会社が譲渡を承認した場合

〈①当初、譲渡先として意図した者に売却する場合〉

当初、譲渡先として意図した者に売却することを会社が承認した場合、そのまま譲渡制限株式を売却することが可能です。その場合、売却金額も当事者間で自由に決定することができます。

3-3 会社が譲渡を承認せず、会社自身が買い取る場合

〈②会社自身が買い取る場合〉

当初、譲渡先として意図した者に売却することを会社が承認せず、会社自身が買い取ることになった場合、仮に取締役会設置会社であっても株主総会を開催し、「株式を買い取ること」「買い取る株式数」を特別決議で決定する必要があります。その後、必要な供託を実施しそれを証明する書面を交付して、会社が株式を買い取ることを請求者に通知します。

売却価格は,株主と買取人(会社)の協議によって決定することになりますが,協議が調わない場合は,株主が買取人から通知を受け取った時から20日以内に当事者が申立てをすれば,裁判所に売買価格を決めてもらうことが可能です。

3-4 会社が譲渡を承認せず、会社が指定した者が買い取る場合

〈③会社が指定した者が買い取る場合〉

当初、譲渡先として意図した者に売却することを会社が承認せず、会社が指定した者が買い取ることになった場合、定款に定めがある場合を除いて、取締役会設置会社では取締役会の決議により、取締役会非設置会社では株主総会の特別決議により、「指定買取人が株式を買い取ること」「買い取る株式数」を決定する必要があります。その後、必要な供託を指定買取人が実施しそれを証明する書面を交付して、指定買取人が株式を買い取ることを請求者に通知します。

売却価格は,株主と買取人(指定買取人)の協議によって決定することになりますが,協議が調わない場合は,株主が買取人から通知を受け取った時から20日以内に当事者が申立てをすれば,裁判所に売買価格を決めてもらうことが可能です。

4 まとめ

仮に、売り手と買い手の間で合意が成されていたとしても、譲渡制限株式は自由に譲渡することができません。会社に譲渡承認請求を行い、会社が定めた承認機関の決議を経て、譲渡契約締結や価格決定を行う必要があるなど、手続きが非常に煩雑です。譲渡制限株式の売却においては、専門家のアドバイスを受けてみることをお勧めします。

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記事協力

幸田博人

1982年一橋大学経済学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)入行、みずほ証券総合企画部長等を経て、2009年より執行役員、常務執行役員企画グループ長、国内営業部門長を経て、2016年より代表取締役副社長、2018年6月みずほ証券退任。現在は、株式会社イノベーション・インテリジェンス研究所代表取締役社長、リーディング・スキル・テスト株式会社代表取締役社長、一橋大学大学院経営管理研究科客員教授、京都大学経営管理大学院特別教授、SBI大学院大学経営管理研究科教授、株式会社産業革新投資機構社外取締役等を務めている。

主な著書

『プライベート・エクイティ投資の実践』中央経済社(幸田博人 編著)
『日本企業変革のためのコーポレートファイナンス講義』金融財政事情研究会(幸田博人 編著)
『オーナー経営はなぜ強いのか?』中央経済社(藤田勉/幸田博人 著)
『日本経済再生 25年の計』日本経済新聞出版社(池尾和人/幸田博人 編著)

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