
同族会社は、株式の大半を親族や特定の少数株主が保有していることから、意思決定のスピードや長期的な経営戦略の実行において強みを持つ一方で、法人税法上では特有の規制が設けられている点に注意が必要です。これは、経営権の集中を悪用した節税や不当な利益操作を防ぐためです。
本コラムでは、特に重要な3つの法人税法上の規定を取り上げ、それぞれの内容と実務への影響についてわかりやすく解説します。
目次
1. 行為又は計算の否認(法人税法132条)
■ 概要
同族会社が「不当な税負担の軽減」を目的として、通常の商慣行から逸脱した取引や計算を行った場合、税務署がその取引の形式を否認し、実質課税を行うことができるとする規定です。
■ 具体例
- ・経営者の親族に対して、市場価格よりも極端に安い価格で不動産や非上場株式を譲渡する
- ・明らかに過大な役員報酬を支給し、法人所得を圧縮する
- ・グループ会社との取引価格を不自然に調整して利益移転を行う
■ 実務上の注意点
「何が“通常の取引”か」という判断はグレーゾーンも多く、税務調査で突然否認されるリスクもあります。社内取引については常に第三者間と同等の合理性・妥当性を意識した設計が重要です。
2. 役員又は使用人兼務役員の範囲の特例(施行令69条・70条)
■ 概要
同族会社では、役員報酬や賞与の損金算入について、通常の法人よりも厳しい制限が設けられています。とくに、「使用人兼務役員」に対する支給が損金算入できるか否かは、実務でも誤解が多いポイントです。
■ 使用人兼務役員とは?
取締役等でありながら、日常的に営業部長や工場長などの職務も兼ねている者。ただし、名目的な肩書きだけでは認められません。
■ 賞与や退職金の取り扱い
- ・通常の役員には、事前確定届出をしない賞与は損金不算入
- ・使用人兼務役員の場合でも、職務実態が乏しければ損金否認される
- ・退職金についても、「過大」と認定されれば課税リスクあり
■ 実務上の注意点
役員報酬は“節税の手段”ではなく、“合理的な対価”としての位置づけを常に意識することが必要です。税務上の損金扱いには、事前届出や合理的な算定根拠が求められます。
3. 特定同族会社の留保金課税(法人税法67条ほか)
■ 概要
「特定同族会社」が利益を社内に過度に留保し続けると、通常の法人税に加えて「留保金課税」が上乗せされるという制度です。これは、法人を“貯金箱”代わりにして、個人への課税を回避する行為を防ぐ目的で設けられています。
■ 特定同族会社とは?
- ・株主等の3人以下で議決権の90%以上を保有している会社
- ・その株主等の過半数が同族関係者であること
■ 留保金課税がかかる条件
- ・所得のうち一定以上が配当などで社外に流出していない
- ・一定の控除後の留保金額に対して、10~20%程度の追加課税
■ 実務上の注意点
- ・配当政策を放置していると課税リスクが高まる
- ・無理な配当ではなく、将来の投資計画などに基づいた説明可能な留保方針を持つことが重要
4. 経営に与える影響と実務上の注意点
同族会社におけるこれらの特別規定は、税務上の透明性を確保するために設けられていますが、逆に経営の自由度を制限する場面もあります。特に「行為又は計算の否認」は、社内取引の意図や実態が問われるため、恣意的な取引を避ける必要があります。
たとえば、同族会社が非上場株式をグループ内で売却するような場合、その価格が時価と乖離していれば、税務当局から否認される可能性が高くなります。このようなケースでは、適切な株価算定(DCF法や類似業種比準法など)が重要になります。
また、役員報酬の設定や、使用人兼務役員の取扱いについても慎重な判断が求められます。同族会社では役員と使用人の立場が曖昧になりやすいため、「施行令69条・70条」に基づく適正な区分がなされていないと、損金算入が否認されるリスクがあります。
さらに、「特定同族会社の留保金課税」は、内部留保を厚くしたい企業にとって頭の痛い問題です。経済環境の変化や今後の投資を見越して利益を社内に留めたい場合でも、一定額を超えると課税対象になります。これにより、投資計画や資金繰りの見直しが迫られることもあるでしょう。
非上場株式の売却を検討している経営者にとっても、これらの規定は見逃せません。例えば、後継者に株式を売却して経営権を移転しようとする場合、適正な株価評価に加え、法人と個人の取引関係にも注意が必要です。もし売却価格が著しく低いと、法人側に寄附金課税が生じる可能性もあります。
このように、同族会社が税務リスクを回避しつつ、円滑な経営・資産承継を実現するには、これらの規定の趣旨を理解し、専門家と連携した慎重な対策が欠かせません。
5. まとめ
同族会社に対する法人税上の3つの特別規定は、「経営者の自由度」と「税務上の公平性」のバランスをとるために設けられています。
一見、内部で完結する“身内の経営”であっても、形式や実態が外部から見て合理的であることが求められる時代です。
税務の知識を持つ専門家と連携しながら、リスクを理解し、計画的かつ公正な経営体制を築くことが、企業の持続的成長と信用向上に繋がるでしょう。
関連記事
記事協力
幸田博人
1982年一橋大学経済学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)入行、みずほ証券総合企画部長等を経て、2009年より執行役員、常務執行役員企画グループ長、国内営業部門長を経て、2016年より代表取締役副社長、2018年6月みずほ証券退任。現在は、株式会社イノベーション・インテリジェンス研究所代表取締役社長、リーディング・スキル・テスト株式会社代表取締役社長、一橋大学大学院経営管理研究科客員教授、京都大学経営管理大学院特別教授、SBI大学院大学経営管理研究科教授、株式会社産業革新投資機構社外取締役等を務めている。
主な著書
『プライベート・エクイティ投資の実践』中央経済社(幸田博人 編著)
『日本企業変革のためのコーポレートファイナンス講義』金融財政事情研究会(幸田博人 編著)
『オーナー経営はなぜ強いのか?』中央経済社(藤田勉/幸田博人 著)
『日本経済再生 25年の計』日本経済新聞出版社(池尾和人/幸田博人 編著)