
はじめに:「株主とは何者か?」という問い
ニュースで「株主総会」「経営陣の刷新」「株式公開」といった言葉を目にする機会は多いですが、そもそも株主とは何者なのでしょうか。単に「株を持っている人」というだけでなく、株式会社という制度において、どのような意味や役割を持っているのでしょうか。
特に未上場企業や同族会社の少数株主にとって、自分の立場や影響力について正しく理解しているケースは少なくありません。「株主なのに会社の情報が入ってこない」「配当はあるが、売却できない」など、戸惑いを抱える人も多いのが実情です。
本コラムでは、株式会社の成り立ちから始まり、株主の本質的な役割、そして現代における少数株主の立ち位置までをたどりながら、「株主として会社とどう向き合うべきか」を考えます。
目次
1. 株式会社のはじまり ── 航海から生まれたリスク分担の仕組み
株式会社という仕組みの起源は17世紀、ヨーロッパの大航海時代にさかのぼります。当時は海外貿易が盛んになり、莫大な資金を必要とする航海事業が次々と立ち上がっていました。
オランダ東インド会社やイギリス東インド会社などが代表例で、これらの企業は「株式」という仕組みで多数の市民から資金を集めました。
投資家は出資した分だけ株式を受け取り、事業の利益配分を受ける権利を持つ一方で、万一の損失については出資額以上の責任を負わないという特徴がありました。これは、今日の有限責任制度のはじまりです。
この仕組みが成功したことで、株式会社は資本調達の有効な手段として世界中に広まり、現代の経済の基盤を形づくる存在となりました。
2. 株主の役割とは何か ── 資金提供者であり、経営の監視者
株式会社において、株主の第一の役割は「資本提供者」です。事業の成長に必要な資金を提供し、その見返りとして利益の一部(配当)を受け取る権利を持ちます。
しかしそれだけではなく、株主は会社の重要事項に対して意思を示す「経営の監視者」としての役割も担っています。
例えば、株主総会では、取締役や監査役の選任・解任、定款の変更、剰余金の配当などが議題となります。これにより株主は、経営者が正しい方向に会社を導いているかどうかを監視し、必要に応じて経営に「ノー」を突きつけることができます。
つまり、株主は「単なる金主」ではなく、会社の一部を所有し、健全な経営に責任を持つ存在なのです。
3. 現代の株式会社 ── 多様な株主と複雑化する利害関係
今日の株式会社は、上場企業から未上場の同族会社まで、形態も規模もさまざまです。株主の構成も多様化しており、年金基金や機関投資家、個人投資家、さらには役員OBや創業者の親族など、さまざまな立場の人が株主となっています。
特に未上場企業や同族会社では、「株を持つことになったが、売却もできず、経営にも関われない」といった少数株主の声が多く聞かれます。相続や退職のタイミングで株式を保有したものの、何の説明もなく放置されているケースも少なくありません。
このように、株式会社という制度は普遍的でも、株主の立場や権限は会社の形態によって大きく異なるのが実情です。
4. 少数株主という立場 ── 影響力は小さくとも無視できない存在
少数株主は、大株主や創業家と比べると、議決権などの面で影響力は限定的です。しかし、だからといって無視できる存在ではありません。
なぜなら、株主は出資者であり、会社の共同所有者だからです。
たとえば、会社法では株主に一定の株数以上を保有していれば、帳簿閲覧請求や株主代表訴訟の提起といった強い権利が与えられています。また、株式が「譲渡制限付き」であっても、株主間での交渉や売却を通じて、会社の資本構成に影響を与えることもあります。
特に未上場企業においては、少数株主が配当や情報開示の面で置き去りにされやすい一方で、将来的なM&Aや承継の局面では重要なキープレイヤーとなることもあります。
5. おわりに ──「株を持つ」とは、その企業に“関わる”こと
株主とは、ただお金を出す人ではありません。その会社の一部を所有し、経営の健全性と成長の行方を共に担う存在です。
特に未上場企業や同族会社においては、株主としての立場や権利が見えにくくなりがちです。しかし、だからこそ、自らの立場を理解し、情報にアクセスし、必要であれば働きかけていく姿勢が求められます。
「株を持つ」ということは、企業の未来に対して責任を持ち、関与するということ。
少数株主であっても、その視点と言葉が企業を映す“鏡”となり、健全な経営につながっていくのです。
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記事協力
幸田博人
1982年一橋大学経済学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)入行、みずほ証券総合企画部長等を経て、2009年より執行役員、常務執行役員企画グループ長、国内営業部門長を経て、2016年より代表取締役副社長、2018年6月みずほ証券退任。現在は、株式会社イノベーション・インテリジェンス研究所代表取締役社長、リーディング・スキル・テスト株式会社代表取締役社長、一橋大学大学院経営管理研究科客員教授、京都大学経営管理大学院特別教授、SBI大学院大学経営管理研究科教授、株式会社産業革新投資機構社外取締役等を務めている。
主な著書
『プライベート・エクイティ投資の実践』中央経済社(幸田博人 編著)
『日本企業変革のためのコーポレートファイナンス講義』金融財政事情研究会(幸田博人 編著)
『オーナー経営はなぜ強いのか?』中央経済社(藤田勉/幸田博人 著)
『日本経済再生 25年の計』日本経済新聞出版社(池尾和人/幸田博人 編著)