非上場企業の少数株式の流動化支援、株主構成・資本政策の課題解決

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非上場企業の少数株式の流動化支援、株主構成・資本政策の課題解決

2020年5月14日

政策保有株式の売却において忘れてはならない非上場・少数持分の存在

1 政策保有株式とは何か

政策保有株式は日本企業に特有の形態で、株価上昇や配当から利益を得るといった目的による「純投資」以外の目的で保有する株式を指します。主に2社以上の企業で相互の株式を保有し合う「株式持ち合い」の形をとるケースが大半となっており、日本では1960年代以降、こうした仕組みを取る企業が増えてきました。

しかし、企業によってはその保有目的や経営戦略上の意味付けがあいまいになっていることもあり、コーポレートガバナンス上、問題視されるケースが増えています。

2 政策保有株式のメリット

持ち合い株に代表される政策保有株式を持つメリットは、まず「経営の安定化」にあると言われています。

メインバンクと企業または企業間で株式を持ち合うことで、お互いの経営に口出しせず、他の株主による経営への関与や敵対的買収のリスクを避けることができると考えられてきました。上場企業の場合は、株価の安定につなげる意図もありました。

また、系列グループ内で株式を持ち合うことにより系列関係を維持したり、取引先と株式を持ち合うことにより取引関係を強化し新たな取引につなげるという狙いもあります。一時は海外メディアなどから、日本の高度経済成長を支えてきた日本型経済システムの一つとして、株式持ち合いが取り上げられることもありました。

3 政策保有株式のデメリット

しかし、バブル崩壊を契機に日本経済が衰退していくにつれ、こうした仕組みのデメリットが目立つようになってきました。

まず、ある企業の業績が落ちて株価が下がると、その企業の株式を持ち合っている相手企業の財務を棄損してしまうということがあります。

また、「モノ言わぬ株主」の存在により、不適切な経営に歯止めがかからない、経営陣の暴走を止められない、他の一般株主の利益と相反する可能性が高くなる等、コーポレートガバナンスの観点からも問題視されるようになりました(経営の歪曲化)。

加えて、政策保有株式を持つ企業の多くは、本質的な企業価値向上のためではなく、株式保有企業との「お付き合い」で取引を継続したり、経営資源が競争力向上のために適切に投入されていないため、資本の効率性の観点から投資家に問題視されるようになりました(資本の空洞化)。

4 非上場・少数持分の政策保有株式売却はどうなっているか

4-1 改訂コーポレートガバナンス・コードに明示

高度経済成長において一定の役割は果たした株式持ち合いですが、バブルが崩壊した1990年代以降、保有株式の価値下落により株式持ち合いを解消する動きが進みました。また、2015年にはコーポレートガバナンス・コードが金融庁と東京証券取引所により公表され、政策保有株式の目的について説明を求めるという内容が明記されました。

その後、議決権に占める政策保有株式の割合は減少していったものの、事業法人間での売却は依然として不十分な状況となっています。そこで、2018年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードにおいては、「説明」を求めるだけにとどまらず、原則として政策保有株式の売却を求める内容が示され、もう一歩踏み込んだ対応が企業に要求されることとなりました。

ここでは、政策保有株式を保有させている側が、売却の取り組みを妨害しないことなどが求められています。

現状では、改訂コーポレートガバナンス・コードの指針に沿って、上場企業各社において政策保有株式の縮減は段階的に進んではいるものの、まだ十分とは言えません。今後も企業には一層の努力が促されることになるでしょう。

企業が政策保有する株式は、上場企業株の場合は市場で売却するなどして持ち分を減らすことが可能です。実際にほとんどの企業が、上場企業株から優先的に処分しています。

4-2 困難な非上場株式の売却

一方、問題なのが非上場企業株です。改訂コーポレートガバナンス・コードでは、非上場企業の株式についても同様に売却が求められており、上場企業が政策保有している非上場株式については、保有銘柄数とB/S計上額(合計)を開示することが義務付けられました。しかし、上場株の売却と比べて優先順位が低くなっています。

非上場株は公開市場での売却ができないため自ら買い手を探す必要がありますが、将来的なIPOなどの出口戦略が明確なケースを除き、一般的には流動化しにくい非上場株の保有にあまりメリットはないと考えられています。そのため、実際の購入希望者は限られており、企業としても処分に困っているのが現状です。

とはいえ、コーポレートガバナンス・コードに示されている「政策保有株式」には、上場、非上場の区別が特にあるわけではありません。企業としては、目的が不明確なまま政策保有している非上場株式も、積極的に処分していく必要があります。

上場株式と同様に、非上場株式の売却が進まなければ、経営の健全化や株主の権利保護が十分に達成できない可能性が高まります。上場株式と同様、非上場の政策保有株式の売却を進めていくことは、今後の重要な経営テーマとなってくるでしょう。

非上場の政策保有株式を買いたい投資家を見つけるのは、非常に難しく、売却手続きも煩雑です。保有比率に関わらず、豊富な経験とノウハウを持つNGSパートナーズまでご相談ください。

記事協力

幸田博人

1982年一橋大学経済学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)入行、みずほ証券総合企画部長等を経て、2009年より執行役員、常務執行役員企画グループ長、国内営業部門長を経て、2016年より代表取締役副社長、2018年6月みずほ証券退任。現在は、株式会社イノベーション・インテリジェンス研究所代表取締役社長、リーディング・スキル・テスト株式会社代表取締役社長、一橋大学大学院経営管理研究科客員教授、京都大学経営管理大学院特別教授、SBI大学院大学経営管理研究科教授、株式会社産業革新投資機構社外取締役等を務めている。

主な著書

『プライベート・エクイティ投資の実践』中央経済社(幸田博人 編著)
『日本企業変革のためのコーポレートファイナンス講義』金融財政事情研究会(幸田博人 編著)
『オーナー経営はなぜ強いのか?』中央経済社(藤田勉/幸田博人 著)
『日本経済再生 25年の計』日本経済新聞出版社(池尾和人/幸田博人 編著)

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