非上場企業の少数株式の流動化支援、株主構成・資本政策の課題解決

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非上場企業の少数株式の流動化支援、株主構成・資本政策の課題解決

2020年8月13日

非上場株式の相続にも有効!自社株買いのメリット・デメリット

自社株買いは、会社の債権者保護、株主平等原則などの観点から、以前は、原則禁止とされていましたが、2001年10月の商法改正により、目的を定めずに金庫株として取得・保有することが可能となりました。その結果、今日では、上場企業を中心に、株価低迷の改善策、敵対的買収への防衛策、M&Aの対価としてなど、様々な目的に利用されています。同時に、非上場企業でも事業承継やオーナーの相続対策などの目的で利用されています。今回は、非上場企業で行われる自社株買いを中心に、そのメリット、デメリットについて解説します。

1 自社株買いとは

1-1 自社株買いとは

自社株買いとは、自社で発行した株式を株主から買い戻すこと指し、会社法上は「自己株式の取得」と言います。以前は、会社の債権者保護、株主平等原則などの観点から自社株買いは禁止されていましたが、現在は一定の要件を満たせば認められています。株式会社が自己株式を取得することができる場合については、会社法で以下のとおり定められています。

 【自己株式の取得条件】

  •   1, 取得条項付株式を自己株式として取得する場合
  •   2, 譲渡制限株式を自己株式として取得する場合
  •   3, 株主総会決議等により取得する場合
  •   4, 取得請求権付株式を自己株式として取得する場合
  •   5, 全部取得条項付種類株式を自己株式として取得する場合
  •   6, 株式相続人等への売渡請求に基づき取得する場合
  •   7, 単位未満株式を取得する場合
  •   8, 所在不明株主の株式を取得する場合
  •   9, 端数処理手続により取得する場合
  • 10, 他の会社の事業の全部を譲り受ける際に、株式を取得する場合
  • 11, 合併消滅する会社から株式を取得する場合
  • 12, 吸収分割をする会社からの株式を取得する場合
  • 13, 法務省令で定める場合

1-2 財源規制

会社が自己株式を有償で無制限に取得すると会社の財政基盤が損なわれ、会社の債権者が不利益を被りかねません。このような事態を防ぐため、会社法では「自社株買い」を自己株式を取得する日の会社の分配可能額を超えない範囲で行うよう制限しています。これを「自己株式の取得」の「財源規制」と言います。

2 非上場企業が行う自社株買いのメリット

非上場企業が行う自社株買いのメリットは、主に次の2点があります。

相続人にとってのメリット ― 納税資金を確保できる

相続税の支払いは原則として現金で行わなければなりませんが、資産のある会社や業績のいい会社の株式を相続する場合、相続税評価額が高額になり「税金を支払えない」ことも少なくありません。相続人が納税資金を準備できない場合、納税資金の調達方法として自社株買いが一つの解決策です。相続人は、会社に株式の全部または一部を買い取ってもらい会社から売却資金を受け取り、その資金を使って相続税を納付することができます。

ただし、自社株買いにより得た資金は、税務上、一部を資本金の払戻し、一部を会社が蓄積した利益の分配と考えます。会社が蓄積した利益の分配は、配当金とみなされ総合課税されてしまいます。このような取り扱いを、「みなし配当課税」と言い、最高税率は55%にもなります。自社株買いを安易にしてしまうと、個人側には非常に大きな税負担が強いられてしまうので、注意が必要です。

会社にとってのメリット ― 株式の分散を防ぐことができる

株式の保有比率が高いほど、経営はスムーズに行うことができます。しかし、業歴の長に会社では、相続を繰り返すうちに株式が分散してしまうケースはよくあります。中には、会社にとって好ましくない者が株主となってしまい、会社の意思決定が滞ってしまう可能性もあります。株式が分散してしまっている会社で、少数株主から株式を売却したいという申し出があった場合、経営陣が十分な資金を持っていれば、個人で買い取ることも可能ですが、そうでない場合は、会社が自社株買いを行うことで、株式の集約を行い経営を安定化させることが可能です。

3 非上場企業が行う自社株買いのデメリット

非上場企業が行う自社株買いのデメリットは、主に次の2点があります。

会社にとってのデメリット① ― 財務体質の悪化

自己株式を取得する際は現金で買い取ります。そのため、取得資金分だけ現預金が減少します。中には、取得資金を金融機関から借入る場合もあります。また、自己株式は、マイナスの純資産であり、多額の自己株式の取得は、自己資本比率が大きく悪化させ、会社として金融機関からの信用を損なってしまう可能性もあります。加えて、本来、事業に投資すべき資金を収益を生まない株式取得に使うことも、会社の成長という観点からはデメリットです。

会社にとってのデメリット② ― 処分に手間がかかる

取得した自己株式は金庫株として放置することもできますが、いずれは処分・消却を行います。その場合、取締役会や株主総会の決議、公告など、面倒な手続きが必要です。また場合によっては、追加費用も生じるため、十分に注意が必要です。

4 まとめ

非上場企業での自社株買いは、事業承継やオーナーの相続対策などで有効な手段となり得ますが、デメリットもあります。また、株式の取得価額は、上場企業であれば適正な価額を算定しやすいですが、非上場企業の場合は専門家による厳密な算定が不可欠です。さらに、取得資金が会社の分配可能額を超えてはならないという財源規制にも注意が必要です。自社株買いを計画するときは、専門家のアドバイスを受けてみることをお勧めします。

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記事協力

幸田博人

1982年一橋大学経済学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)入行、みずほ証券総合企画部長等を経て、2009年より執行役員、常務執行役員企画グループ長、国内営業部門長を経て、2016年より代表取締役副社長、2018年6月みずほ証券退任。現在は、株式会社イノベーション・インテリジェンス研究所代表取締役社長、リーディング・スキル・テスト株式会社代表取締役社長、一橋大学大学院経営管理研究科客員教授、京都大学経営管理大学院特別教授、SBI大学院大学経営管理研究科教授、株式会社産業革新投資機構社外取締役等を務めている。

主な著書

『プライベート・エクイティ投資の実践』中央経済社(幸田博人 編著)
『日本企業変革のためのコーポレートファイナンス講義』金融財政事情研究会(幸田博人 編著)
『オーナー経営はなぜ強いのか?』中央経済社(藤田勉/幸田博人 著)
『日本経済再生 25年の計』日本経済新聞出版社(池尾和人/幸田博人 編著)

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