非上場企業の少数株式の流動化支援、株主構成・資本政策の課題解決

メール

非上場企業の少数株式の流動化支援、株主構成・資本政策の課題解決

2020年7月23日

少数株主から株式を買い取る方法と少数株主の権利

支配株主が少数株主から強制的に株式を買い取るなどの方法により、少数株主を会社から追い出すことを「スクイーズアウト」と言います。スクイーズアウトには、いくつかの手法がありますが、支配権を強化して会社の意思決定を迅速化したり、安定した経営の支障となる株主を排除したりするために非常に有効な手段です。一方で少数数株主の権利を制限するものであるため、その活用は慎重に行う必要があります。今回は、「スクイーズアウト」の方法と少数株主の権利について、説明します。

1 少数株主から株式を買い取る「スクイーズアウト」とは

支配株主が少数株主から強制的に株式を買い取るなどの方法により、少数株主を会社から追い出すことを「スクイーズアウト(Squeeze Out)」と言います。

スクイーズアウトには、「特別支配株主による株式売渡請求」、「株式併合」、「株式交換」などの手法があり、主に株式が分散してしまっている会社が、支配権を強化して会社の意思決定を迅速化したい、安定した経営の支障となる株主を排除したいといった理由で活用するケースが多いです。

2 スクイーズアウト活用の狙い

先程も少し触れましたが、スクイーズアウト活用の狙いは、主に下記3点です。

2-1 意思決定の迅速化

会社法では、少数株主の権利を保護するため様々な制度が定められています。例えば、議決権の3%以上を保有する株主であれば、「会社の会計帳簿を閲覧する権利」が認められています。また、10%以上であれば、「会社解散請求権」が認められています。仮に1単元(議決権行使の最低単位)しか持っていない場合でも、6か月前から対象会社の株式を保有していれば、株主代表訴訟を起こすことも可能です(上場企業でない場合はこの6か月ルールも適用されません)。これらは、少数株主の権利を保護する観点からは重要な制度ですが、支配株主にとっては不都合な場合もあります。例えば、対立する少数株主に会社の活動が詳細に記録された会計帳簿を見られるのは経営陣にとってやりにくいでしょう。また、リスクのある新規事業や投資を決断する際は、常に少数株主から訴訟を起こされるリスクを想定せざるを得なく、迅速な意思決定ができないことも考えられます。このようなリスクを回避するため、スクイーズアウト活用を検討することは重要です。

2-2 株式分散リスクの解消

非上場の同族企業の場合、経営に関与していない親族が少数株主となっているケースが多くあります。このような少数株主に相続が発生すると株主が増加し、株式が分散していくリスクがあります。中には連絡が取れない株主、面識のない株主が出てきて、対応に苦慮することになるリスクも想定されます。また、株主総会の招集通知の送り先が増え事務作業のコストが増える可能性があります。このようなリスクを解消する手法としてスクイーズアウトは有効です。

2-3 税務上のメリットを享受したい

株式等売渡請求、株式併合により完全子会社化する場合、株式交換と同じく組織再編税制と位置付けられ、親会社は連結納税制度を適用することが可能になります。これにより、承継する会社の繰越欠損金の損益通算が可能になるなど、組織再編税制のメリットが得られます。

3 スクイーズアウトの手法

支配権を強化して会社の意思決定を迅速化する上で有効なスクイーズアウトには、いくつか手法がありますが、代表的なものは以下の3つです。なお、少数株主が少ない中小企業でスクイーズアウトを行う場合、まずは各株主と話し合いによる買取り交渉を行うことが一般的です。その上で、様々な理由により買取りができない場合に、スクイーズアウトの活用を検討することになります。

3-1 特別支配株主による株式等売渡請求

議決権の90%以上を有する「特別支配株主」が他の株主全員に対して株式の強制売却を命じる手法です。このとき必要となるのは、取締役会もしくは過半数以上の取締役の合意による承認のみです。株式総会の決議が不要で円滑に実行できるため、特別支配株主が存在する場合は多く用いられる手法です。

3-2 株式併合

複数の株式を1株に統合する手法です。株式の統合により少数株主が保有する株式を1株未満とし、少数株主が保有する権利を失効させます。端数となった株式は、端数相当の金銭が交付され、同時に少数株主が締め出されます。

3-3 株式交換

主に子会社少数株主から株式を回収する手法です。まず、子会社の株式を保有する株主から親会社の株式との引き換えに子会社株式の買い上げを行います。これにより少数株主は、親会社の株式を保有することになります。その上で、親会社が株式併合を行い、少数株主の保有株式を1株未満にすることで、スクイーズアウトを行います。

4 少数株主の権利

会社法では、スクイーズアウトにおいて少数株主の利益が損なわれないように、例えば、「株主総会決議取消しの訴え」「反対株主の株式買取請求」「価格決定の申立て」など、少数株主に対抗手段が与えられています。

また、株式等売渡請求を用いた手法は、株主総会の手続きなしに強制的に少数株主の株式を買い取るため、会社法改正により平成27年5月 からは「情報開示の充実」や「差止請求」などの制度が導入され、少数株主の保護が強化されています。

5 まとめ

株式が分散してしまっている会社が、支配権を強化して会社の意思決定を迅速化したり、安定した経営の支障となる株主を排除したりする上で、スクイーズアウトの検討は重要です。一方で、少数株主の権利を制限するものであるため、制度上、今後も、利便性と権利保護の調整が図られていくと考えられています。実行においては、会社法上の手続を適法に行うことが重要ですが、高度な専門知識が求められるため、不明な点がある場合は専門家に相談の上、最適な手法を選択し実行することをおすすめします。

関連記事

 

記事協力

幸田博人

1982年一橋大学経済学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)入行、みずほ証券総合企画部長等を経て、2009年より執行役員、常務執行役員企画グループ長、国内営業部門長を経て、2016年より代表取締役副社長、2018年6月みずほ証券退任。現在は、株式会社イノベーション・インテリジェンス研究所代表取締役社長、リーディング・スキル・テスト株式会社代表取締役社長、一橋大学大学院経営管理研究科客員教授、京都大学経営管理大学院特別教授、SBI大学院大学経営管理研究科教授、株式会社産業革新投資機構社外取締役等を務めている。

主な著書

『プライベート・エクイティ投資の実践』中央経済社(幸田博人 編著)
『日本企業変革のためのコーポレートファイナンス講義』金融財政事情研究会(幸田博人 編著)
『オーナー経営はなぜ強いのか?』中央経済社(藤田勉/幸田博人 著)
『日本経済再生 25年の計』日本経済新聞出版社(池尾和人/幸田博人 編著)

« »