非上場企業の少数株式の流動化支援、株主構成・資本政策の課題解決

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非上場企業の少数株式の流動化支援、株主構成・資本政策の課題解決

2020年8月20日

相続・贈与時の非上場株式の評価方法は?

相続税・贈与税の計算では対象財産が時価で評価されます。上場株式の場合は市場取引価格が評価額となりますが、取引相場のない非上場株式の評価額は国税庁の「財産評価通達」に記載された特別な方法で算出することになります。

非上場会社の事業承継では自社株にかかる相続税・贈与税が大きな足かせになる場合が多々あります。この記事では事業承継の当事者として頭に入れておいたほうがよい基本的なポイントをかみ砕いて解説します。

1 非上場株式の評価方式の種類

国税庁の財産評価通達では以下の3つの評価方式が規定され、企業規模などに応じて適切な方式を選択して株式評価を行うことになっています。ここではまずそれぞれの方式の概要をかいつまんで説明します。

1-1 類似業種比準価額方式

業種が類似した上場企業の近時の株価・配当・利益・純資産を基準にして価額を算出する方式です。基準となる株価などは業種別に国税庁より随時発表されます。

【類似業種比準価額方式】

1株当たりの価額=A×{(B+C+D)÷3}×e

  • A:業種別の基準株価
  • B:自社の1株当たりの配当額(非経常的配当を除いた直前期末以前2年間の平均)÷業種別の基準配当額
  • C:自社の1株当たりの利益額(直前期末以前1年間)÷業種別の基準利益額
  • D:自社の1株当たりの純資産額(直前期末簿価)÷業種別の基準純資産額
  • e:企業規模に応じた比率(大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5)

Bは自社の配当額が基準額の何倍に当たるかを表します(通例は1より小さいので、「何分の一か」と言った方がよいでしょう)。C、Dも同様です。業種別の基準株価Aをベースとし、配当・年利益・純資産の程度(B~D)にしたがって加減し、企業規模に応じた比率をかけて価額を算出するというわけです。企業規模の判定基準については後ほど解説します。

1-2 純資産価額方式

課税時期の時価で評価した純資産をもとにして価額を算出する方式です。

【純資産価額方式】

1株当たりの価額={(A-B)-C}÷ 発行済株式数

  • A:通達の規定で計算した時価総資産
  • B:通達の規定で計算した時価負債合計
  • C:通達の規定で計算した時価純資産(A-B)が帳簿上の時価純資産を上回った場合、その差額に対する法人税・事業税・住民税相当額(2020年8月10日現在、差額の37%)

通達では財産の種類ごとに時価の評価方法が定められています。例えば、在庫にある原材料や部品は取得価格ではなく改めて調達する場合の仕入価格が基準となります。一方、生命保険契約については解約した場合に支払われる払戻金などで評価されます。

一般的に、純資産の時価を評価する方法には精算価値法(全財産を即座に処分した場合の金額を純資産とする)と再調達価値法(類似のものを購入するなどして全財産を改めて調達する場合の金額を純資産とする)があります。通達では2つの方式が混在しており、財産の種類ごとに評価方法を慎重にチェックする必要があります。

1-3 配当還元方式

株式の配当額から逆算して株式の価値を推定する方式です。これは学説やファイナンス実務、近時の裁判例などでは主流の手法に属しますが、国税庁通達では少数株主が株式を取得する場合にしか使われない特例的な方法で、事業承継対策にとっては重要度が低いため、詳しい説明は省略します。

2 非上場株式の評価方式の決め方

どの方式で評価を行うべきかは3段階の判定基準にしたがって決定することができます。

2-1 株式取得者が「同族株主等」に該当するかどうかを判定

まず、株式を取得する人が同族株主等に該当するかどうかを判定します。通達にはかなり細かい規定がありますが、大雑把に言えば、取得者が親族や特別な関係にある個人・法人とともに支配株主グループ(または中心的な大株主グループ)を形成している場合、同族株主等に当たります。事業を承継する後継者は同族株主等に当たるのが普通でしょう。

同族株主等に当たる場合、第2、第3の判定基準で判断します。同族株主等でない場合は以下の通りです。

【同族株主等以外の場合】
評価方法は原則として配当還元方式。ただし同族株主等の場合と同じ方式で評価した価額のほうが低い場合はそちらを採用する。

2-2 「特定の評価会社」に該当するかどうかを判定

次に、通達で特例的な扱いをするように定められている会社(「特定の評価会社」)に該当するかどうかを判定します。該当条件と評価方法は以下の通りです。これらに該当しなければ第3の判定基準(会社規模)で判断します。

【特定の評価会社にあたる場合】

以下の場合、評価方法は原則として純資産価額方式とする(1~5の区分があり、評価方法に細かな違いがある)

  • (1)類似業種比準方式のB~Dのうち2つが0
  • (2)通達に基づいて算出した総資産のうち50%以上を株式等が占める
  • (3-1)通達に基づいて算出した総資産のうち、土地等が一定以上の割合を占める。
  • (3-2)開業後3年未満
  • (3-3)類似業種比準方式のB~Dが3つとも0
  • (4)開業前または休業中
  • (5)清算中

 

2-3 会社規模を判定

会社規模は大会社、中会社、小会社の3つに分かれ、中会社はさらに大・中・小の3つに細分されます。会社規模の判定基準は従業員数、業種、簿価総資産、直前期末以前1年間の取引金額です。例えば、従業員数が70人以上であれば大会社となります。70人未満の場合、その他の条件を加味して大会社、中会社、小会社に分類します。

それぞれの規模に応じて以下の方式を用いて1株当たりの価額を算定します。

【大会社の場合】
原則として類似業種比準価額方式。純資産価額方式も選択可能。

【中会社の場合】
原則として類似業種比準価額方式と純資産価額方式の併用方式(下記)。純資産価額方式も選択可能。

類似業種比準価額×L+純資産価額×(1-L)

L(類似業種比準価額の比重)は、中会社の大・中・小の細分に応じて0.90、0.75、0.6のいずれか

【小会社の場合】
原則として純資産価額方式。下記併用方式も選択可能。

類似業種比準価額×0.5+純資産価額×0.5

類似業種比準価額方式は上場企業の株価を基礎としているため、この方式のみで評価ができるのは大会社だけとなっています。そして併用方式における類似業種比準価額の比重は会社規模が小さくなるほど小さな数字となります。

3 まとめ

財産評価通達の株式評価方法の規定はかなり煩雑です。また、大量の案件を画一的に処理するのには好都合ですが、理論的裏付けや社会の実態との対応を欠いている面があるとも指摘されます。

したがって、事業承継のための相続税・贈与税対策を的確に行うためには、通達の細かな規定に留意しつつ、自社の実態に即して臨機応変に対応することが求められます。今回紹介したような大まかな筋道を把握した上で、専門家との共同作業により対策を進めていくのが得策と言えます。

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記事協力

幸田博人

1982年一橋大学経済学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)入行、みずほ証券総合企画部長等を経て、2009年より執行役員、常務執行役員企画グループ長、国内営業部門長を経て、2016年より代表取締役副社長、2018年6月みずほ証券退任。現在は、株式会社イノベーション・インテリジェンス研究所代表取締役社長、リーディング・スキル・テスト株式会社代表取締役社長、一橋大学大学院経営管理研究科客員教授、京都大学経営管理大学院特別教授、SBI大学院大学経営管理研究科教授、株式会社産業革新投資機構社外取締役等を務めている。

主な著書

『プライベート・エクイティ投資の実践』中央経済社(幸田博人 編著)
『日本企業変革のためのコーポレートファイナンス講義』金融財政事情研究会(幸田博人 編著)
『オーナー経営はなぜ強いのか?』中央経済社(藤田勉/幸田博人 著)
『日本経済再生 25年の計』日本経済新聞出版社(池尾和人/幸田博人 編著)

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