非上場企業の少数株式の流動化支援、株主構成・資本政策の課題解決

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非上場企業の少数株式の流動化支援、株主構成・資本政策の課題解決

2020年6月18日

日本のベンチャー・エコシステムの課題とPEセカンダリー市場の役割

プライベート・エクイティ(PE)とは、一般的には「上場株式以外の未公開株式」を意味しており、そうした未公開株式を投資対象としたPE投資は、主に①VC投資、②バイアウト投資、③ディストレス投資、④セカンダリー投資の4つに分類されます。

今回は、このうちPE投資と日本のベンチャー・エコシステムの関係について解説していきます。

1 日本のベンチャー・エコシステムの課題

アメリカでは、GAFAを始め、UberやAirbnbなどユニコーン(時価総額10億ドル以上の未上場企業)が数多く生まれています。一方で、日本ではなかなかユニコーンが生まれていません。その原因の一つは、日本のベンチャー・エコシステムが不完全であるためと考えられています。

日本のVC投資は、アメリカのそれと比較して20分の1ほどの規模ですが、それでも社数・金額ともに増えていると言われています。

VCファンドから資金調達を受けたスタートアップの多くは、「Jカーブ曲線」といって事業を開始した後数年間は赤字で、その後黒字転換して累積損失を回収しにいくというビジネスモデルになっています。仮にグローバルなスタートアップを目指す場合は、海外マーケットの開拓、研究開発等のため時間・資金をかけJカーブを深堀りしていく必要があります。

しかし日本のVCはIPOでのイグジットを想定している場合が多く、投資からイグジットまでの期間は3~5年程度であるため、企業側に早期上場のプレッシャーをかける傾向にあります。同時に、上場審査では通常、赤字決算は許されません。結果、Jカーブが浅く、国内特化型の小型スタートアップが生まれる傾向にあります。

そこで日本のベンチャー・エコシステムの課題を解決するために注目されているのが、PEのセカンダリー市場です。

2 PEセカンダリー市場とは

PEセカンダリー市場とは、事業会社や個人株主等が保有する未上場株式を現金化し、流動性を提供する流通市場、二次市場のことを指します。

事業会社等が新たに発行した証券を、直接(または仲介者を通じて)投資家が取得する市場は「プライマリーマーケット(発行市場、一次市場)」と呼ばれ、セカンダリー市場と区別されています。

3 PEセカンダリー市場のメリット

PEセカンダリー市場は、売り手(既存投資家)、買い手(新規投資家)、発行会社の三者にとってメリットがあると言われています。

3-1 売り手(既存投資家)のメリット

売り手(既存投資家)のメリットは、主に2つあります。それぞれ詳しく説明していきます。

(1)イグジットの選択肢が拡がる

日本の場合、M&Aより上場の方が高いバリュエーションになるケースが多いため、VCはIPO志向が強くなります。しかし、VCの投資先の全てが上場できるわけではなく、ファンド期限が満期となり売却したいというニーズがあります。また、VCだけでなく、個人投資家もIPOを待たずして、早期に現金化したいというニーズがあります。そのため、フェアバリューで取引が行われるPEセカンダリー市場が形成されることは、イグジットの選択肢が拡がり、売り手(既存投資家)にとって大きなメリットとなります。

なお、アメリカではイグジットの7~8割がM&Aで、キャッシュを得た起業家が、連続的起業家やエンジェル投資家に転じることで、人材・資金のエコシステムを形成しています。

(2)ポートフォリオの調整ニーズ

スタートアップの投資家は、VCに限りません。VC以外に、例えば、事業会社や事業会社が組成するCVC(Corporate Venture Capital)が考えられます。

事業会社やCVCは、自身の戦略変更によりポートフォリオを売却したいといったニーズが生じることがあり、そういった場合にPEセカンダリー市場を活用することが可能です。

3-2 買い手(新規投資家)のメリット

買い手(新規投資家)のメリットは、主に2つあります。それぞれ詳しく説明していきます。

(1)成長ステージが進んだ段階での投資が可能

PEのセカンダリー市場で株式を取得する場合、対象会社の成長ステージが進行していることが想定されるため、イグジットまでの期間が短く、早期の利益確定が期待できるといったメリットがあります。

(2)根拠のあるバリュエーションがしやすい

成長ステージが進んで事業も安定し、今後の成長イメージが予測しやすい段階での投資が可能なため、根拠のあるバリュエーションがしやすいといったメリットがあります。

3-3 発行会社のメリット

発行のメリットは、主に2つあります。それぞれ詳しく説明していきます。

(1)時間をかけてJカーブの深堀りができる

3~5年程度でIPOでのイグジットを想定しているVCは、赤字決算にネガティブで、早期上場を進めるケースもあります。ファンドの満期が迫っているVCが新たな投資家にリプレイスされることで、更なる成長の向け、より時間をかけてJカーブを深掘りしていくことができるといったメリットがあります。

(2)戦略的パートナーへのリプレイスが可能

初期に投資してもらったが、成長ステージが進む段階で、戦略的に意義のなくなった株主を、より戦略的な株主にリプレイスする方法として、活用が見込まれます。

4 まとめ

PEセカンダリー市場は、スタートアップのJカーブの深掘りを可能とする、資本戦略に柔軟性を与える、投資家のポートフォリオに流動性を与えるなど、多くの役割を担います。PEセカンダリー市場が成熟化することが、日本のベンチャー・エコシステムの課題を解決する一つの方法と考えられています。

当たり前ですが、一度投資したらずっと塩漬けになるような環境では、新たな投資は生まれず、市場は硬直化し企業の成長は阻害されてしまいます。セカンダリー市場が活性化することが、日本のスタートアップを含む数多くの企業活動を推進します。

NGSパートナーズは、保有比率に関わらず、法人・個人が保有する未上場株式の流動化を支援するセカンダリー・エージェントとして、多くの実績を有しています。スタートアップなどの未上場株式の流動化にお困りの際は、NGSパートナーズにお任せください。

記事協力

幸田博人

1982年一橋大学経済学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)入行、みずほ証券総合企画部長等を経て、2009年より執行役員、常務執行役員企画グループ長、国内営業部門長を経て、2016年より代表取締役副社長、2018年6月みずほ証券退任。現在は、株式会社イノベーション・インテリジェンス研究所代表取締役社長、リーディング・スキル・テスト株式会社代表取締役社長、一橋大学大学院経営管理研究科客員教授、京都大学経営管理大学院特別教授、SBI大学院大学経営管理研究科教授、株式会社産業革新投資機構社外取締役等を務めている。

主な著書

『プライベート・エクイティ投資の実践』中央経済社(幸田博人 編著)
『日本企業変革のためのコーポレートファイナンス講義』金融財政事情研究会(幸田博人 編著)
『オーナー経営はなぜ強いのか?』中央経済社(藤田勉/幸田博人 著)
『日本経済再生 25年の計』日本経済新聞出版社(池尾和人/幸田博人 編著)

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