6月は多くの企業において、株主総会が開催されますが、この時期になるとよく耳にするのが、アクティビストの話題です。
日本においてアクティビストが注目を集めたのが、2000年代初頭になります。リーマンショックによって投資家がアクティビストファンドから資金を引き揚げるなどしたため、活動はいったん沈静化しました。しかし、2010年代後半より再興し、年々その活動範囲もグローバル化し、投資対象となる企業も増加・大型化が進んでいます。
アクティビストによるさまざまな株主提案の中でも、最近増えてきたのが政策保有株式(非上場株式を含む)の縮減に関する提案です。今回は、アクティビストより提案された政策保有株式の売却についてお伝えします。
Contents
1 アクティビストの定義
1-1 そもそもアクティビストとは何者なのか?
アクティビストとは、株式を一定程度保有し、自らが株主という立場で投資先企業の企業価値向上のため、企業の経営内容などに積極的に提言をする投資家を指します。彼らは「物言う株主」とも言われ、その活動は年々活発化してきています。
2019年の株主総会で、株主提案を受けた企業は54社と過去最高となりました。その中でも、アクティビストによる提案数も増加しているのが現状です。
1-2 株主提案権とは何か
このようにアクティビストの動向が目立ち、社会的にも注目されていますが、株主提案権について一度確認しておきましょう。
株主提案権は、①議題提案権、②議案通知請求権、③議案提案権この3つの権利を合わせたものを指します。
- ①議題提案権とは、株主が一定の事項を株主総会の目的とすることを請求する権利です。
- ②議案通知請求権とは、議題につき株主が提出しようとする議案の要領を招集通知に記載または記録することを請求する権利です。
- ③議案提案権とは、株主総会において議題につき議案を提出することができる権利です。
株主提案権は、経営に参加する権利である共益権の一つです。また、株主提案権を保有しているのは、株主の議決権の100分の1以上または300個以降の議決権を6ヶ月前から引き続き有する株主に限られています。(会社法303条2項・305条1項ただし書)
2 アクティビストが政策保有株式売却を提案する背景とその目的
2-1 政策保有株式を問題視するアクティビスト
アクティビストは株主提案権を行使し投資先企業へ積極的な提案を行っています。アクティビストの動向としては2000年代には、余剰資金をため込んだ企業への株主還元や買収提案がメインでした。
しかし、コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードといった企業統治ルールの改訂などにより、企業側には株主との対話や利益を重視した経営、投資家側には経営陣を監視し責任ある投資を行うことがより強く求められるようになりました。
ここでしばしば海外を中心とした投資家から問題視されるのが、企業の本質的価値向上のためでなく、特定取引先との関係維持や投資家による経営への介入を防ぐために保有する「政策保有株式」という日本独特の慣習なのです。政策保有株式に対する矛盾や疑問を持つアクティビストが、その売却を提案するケースが増えています。
2-2 アクティビストの3つ戦略
アクティビストが取る戦略については基本的には大きく以下の3つに分けられます。
(1)資本構成に関するアプローチ
1つ目は資本構成に関するアプローチです。PBR(株価純資産倍率)が1を割っている、または必要以上にキャッシュを保有する資本効率の悪い企業に対して、配当の引き上げや自社株買いを行うように要求するアプローチです。
(2)ガバナンスに関するアプローチ
2つ目はガバナンスに関するアプローチです。コーポレートガバナンスが機能していない企業に対してガバナンスの改善や取締役会、または経営陣の交代を要求することです。
(3)事業戦略に関するアプローチ
3つ目が事業戦略に関するアプローチです。業績が低迷している企業や非効率な経営を行う企業に対して、戦略の見直し、事業の分社化、合併など事業戦略に関する提言を行うものです。
アクティビストには、投資先企業の資本構成を健全化し、成長分野に効率的な投資を行うよう促すという大義名分があります。この文脈に沿って考えれば、政策保有株式売却の提案が増えているのは、必然と言えるでしょう。
2-3 アクティビストの存在意義と企業としての心構え
アクティビストは企業価値を高めることを目的に活動しているので、他の投資家が指摘しない点をあえて指摘し、株式の流動性をもたらす存在とも言えます。
コーポレートガバナンス・コードの改定により、企業価値重視の潮流が日本では強まっており、それがアクティビストにとって追い風になっているのも事実です。割安銘柄が多く、株主重視の環境が整いつつある日本は、アクティビストの絶好のターゲットとなっているともいわれています。
これまで、経営の安定化を目的に政策保有株式を手放さなかった経営陣にとっては、こうしたアクティビストの存在は疎ましいというのが本音かもしれません。しかし、コーポレートガバナンスの健全化が企業価値に大きく影響を与えるようになった現在、アクティビストの提案がなくとも、企業は積極的に政策保有株について情報開示し、その縮減を行うことが求められています。
まとめ ― 政策保有株の売却は非上場企業株も対象に
アクティビストに狙われないためにも、企業にはガバナンスや資本コストを意識した経営が求められています。政策保有株式を売却するということは、結果的には経営の歪曲化の是正、資本の空洞化の是正に役立つという視点に立つ必要があります。
また、資本効率性改善のための政策保有株式売却は、上場企業株に限定されるべきではなく、非上場企業株についても当然行わなくてはなりません。改訂コーポレートガバナンス・コードでは、上場企業が政策保有している非上場株式について保有銘柄数とB/S計上額(合計)を開示することが義務付けられ、積極的に縮減を進めることが求められています。
ただ、非上場市場は取引市場が少なく、売却が困難な場合が多いのが実情です。具体的な売却先が見つからずにお悩みであれば、非上場株式の流動化に特化した専門知識を持つセカンダリーエージェント、NGSパートナーズにご相談ください。
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記事協力
幸田博人
1982年一橋大学経済学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)入行、みずほ証券総合企画部長等を経て、2009年より執行役員、常務執行役員企画グループ長、国内営業部門長を経て、2016年より代表取締役副社長、2018年6月みずほ証券退任。現在は、株式会社イノベーション・インテリジェンス研究所代表取締役社長、リーディング・スキル・テスト株式会社代表取締役社長、一橋大学大学院経営管理研究科客員教授、京都大学経営管理大学院特別教授、SBI大学院大学経営管理研究科教授、株式会社産業革新投資機構社外取締役等を務めている。
主な著書
『プライベート・エクイティ投資の実践』中央経済社(幸田博人 編著)
『日本企業変革のためのコーポレートファイナンス講義』金融財政事情研究会(幸田博人 編著)
『オーナー経営はなぜ強いのか?』中央経済社(藤田勉/幸田博人 著)
『日本経済再生 25年の計』日本経済新聞出版社(池尾和人/幸田博人 編著)