非上場企業の少数株式の流動化支援、株主構成・資本政策の課題解決

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非上場企業の少数株式の流動化支援、株主構成・資本政策の課題解決

2023年6月21日

少数株式を会社に買い取ってもらうときの売り手(個人)の注意点

保有する非上場企業の少数株式を売却したいと考えている少数株主にとって、発行会社は有力な買い手候補の一つです。

会社が株式を買い取ることは、自己株式取得(自社株買い)に当たります。この自己株式取得の会社(買い手)から見たメリット・デメリットについては、以前当コラムで触れました。

【関連】非上場株式の相続にも有効!自社株買いのメリット・デメリット

そこで今回は視点を変え、売り手である少数株主(個人)から見た自己株式取得の注意点について解説したいと思います。

1.自己株式取得の手順と売り手の注意点

会社に自己の保有する株式を買い取ってもらうことは、会社法上、「特定の株主から自己株式を取得すること」と見なされ、その手続きは、以下の手順で行われます。手順を説明する中で、売り手の注意するポイントを紹介します。

<自己株式取得の手順>

① 売主追加請求の行使の通知(会社法160条3項)

② 株主総会決議(特別決議)(会社法160条1項)
・自己株式取得の「枠取り」の決議

③ 取締役会の決議(会社法157条1項)
・具体的な「取得」の決定

④ 株主に対する通知・公告(会社法158条1項)

⑤ 株式譲渡の申し込み(会社法159条1項)

1-1 売主追加請求権の行使の通知

「売主追加請求」という言葉、聞き馴染みのない方が多いかと思います。これは、特定の株主だけが自己の所有する株式を会社に売却できるというのは、特定の株主だけが特に有利な価格で株式を会社に売り渡す可能性があり、株主間の公平(株主平等の原則)を害するおそれがあります。そこで、株主間の公平を害さないよう、他の株主にも売却の機会を与えており、これを「売主追加請求権」と言います(会社法160条3項)。

特定の株主から自己株式を取得する会社は、原則として株主総会の日の2週間前までに、株主総会の招集通知と売主追加請求が可能である旨の通知を他の株主にも発しなければなりません。

1-2 株主総会決議(特別決議)

株主総会の特別決議では、次の事項を定める必要があります。
(会社法160条1項)

① 取得する自己株式の種類及び数

② 自己株式の取得と引き換えに交付する金銭等の内容及びその総額

③ 株式を取得することができる期間

④ 会社法158条に基づく通知を特定の株主に対して行う旨

1-3 取締役会の決議

株主総会で自己株式取得が承認された後、取締役会で具体的な手続の内容を決定します。(会社法第157条1項)。

① 取得する自己株式の種類及び数

② 自己株式1株を取得するのと引き換えに交付する金銭等の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法

③ 株式を取得するのと引き換えに交付する金銭等の総額

④ 株式の譲渡しの申込みの期日

1-4 株主に対する通知・公告

上記決定を行った会社は、株主が譲渡の申込みができるよう、決定した内容を株主に通知する必要があります(会社法158条1項)。

1-5 株式譲渡の申込み

会社に対して自己株式の譲渡を希望する株主は、譲渡する株式の種類及び数を特定して申し込む必要があります(会社法159条1項)。特定株主以外の株主で株式の譲渡を希望する場合は、売主追加請求を行います。

1-6 売り手の注意点

その後、売主追加請求権が行使されたことによって、会社が取得を予定する自己株式数を超えてしまった場合、取得を希望した全株主から按分して取得することになります。その結果、売り手としては、希望通り株式を売却できない(売れ残りが生じる)ケースもあるので、注意が必要です。

2.みなし配当課税の注意点

会社に自己の保有する株式を買い取ってもらい、売り手(個人)に金銭等が交付された場合、「みなし配当」として課税の対象となります。

「みなし配当」という言葉も、聞き馴染みのない方が多いかと思います。簡単に言うなら、「会社に自己の保有する株式を買い取ってもらう」=「税務上、会社から配当があったとみなす」ということです。

みなし配当となった場合、売り手(個人)が受けた非上場企業の配当は配当所得として原則的に総合課税所得となります。株式を売却した場合は分離課税所得で税率が一定(住民税含め20.315%)ですが、配当所得の場合は超過累進税率のもと、住民税含め最高55%強の税率となり、手残りとしての売却代金が非常に少なくなってしまう可能性があります。

3.まとめ

流動性が低い非上場企業の少数株式を売却したいと考えている少数株主にとって、発行会社は有力な買い手候補の一つです。しかし、売主追加請求により取得される株式が按分され、株式が売れ残ってしまったり、みなし配当課税により高額な所得税が課されたりするケースもあります。

実際の売却に際しては、今回紹介したような大まかな手順やルールを把握した上で、専門家との共同作業により対策を進めていくのが得策と言えます。

 

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記事協力

幸田博人

1982年一橋大学経済学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)入行、みずほ証券総合企画部長等を経て、2009年より執行役員、常務執行役員企画グループ長、国内営業部門長を経て、2016年より代表取締役副社長、2018年6月みずほ証券退任。現在は、株式会社イノベーション・インテリジェンス研究所代表取締役社長、リーディング・スキル・テスト株式会社代表取締役社長、一橋大学大学院経営管理研究科客員教授、京都大学経営管理大学院特別教授、SBI大学院大学経営管理研究科教授、株式会社産業革新投資機構社外取締役等を務めている。

主な著書

『プライベート・エクイティ投資の実践』中央経済社(幸田博人 編著)
『日本企業変革のためのコーポレートファイナンス講義』金融財政事情研究会(幸田博人 編著)
『オーナー経営はなぜ強いのか?』中央経済社(藤田勉/幸田博人 著)
『日本経済再生 25年の計』日本経済新聞出版社(池尾和人/幸田博人 編著)

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