非上場企業の少数株式の流動化支援、株主構成・資本政策の課題解決

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非上場企業の少数株式の流動化支援、株主構成・資本政策の課題解決

2020年9月3日

非上場株式の分散を防止する方法:相続人等に対する売渡請求について

非上場企業のオーナー経営者が亡くなった場合などに、民法で定められた相続の規定によってオーナーが保有していた株式が分散してしまうことがあります。事業承継に際して後継者に経営権をスムーズに集約するため、あるいは会社にとって好ましくない人物が株式を取得する事態を防止するために、どのような措置を講じておけば良いのでしょうか。今回は非上場株式の分散を防止し、集約するために有効な、相続人等に対する売渡請求について解説します。

1 非上場株式の分散をいかに防止するか

1-1 相続、事業承継に活用できる株式等売渡請求

非上場企業において、株主である親族や取引先などと経営者の間で、経営方針に関する意見が必ずしも一致しないことがあります。こうした場合、経営者としては自分の死後に株式が分散して、会社が意図せぬ方向に進んでしまうのは避けたいところです。

生前に事業承継を行う場合も、後継者に経営権を集約させるために、分散している株式をできるだけ集約しておく必要があります。

そのために活用したいのが、相続人等に対する株式の売渡請求です。会社法174条には、相続が発生した場合に、相続人に対して非上場株式の売渡請求ができるという規定を定款に定められる旨が記載されています。

会社法174条

(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)

株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。

こうした規定を設けることによって、たとえば会社にとって好ましくない株主が相続によって株式を取得した場合、その株式を会社が強制的に買い取ることができるようになるのです。

1-2 相続人に対する株式等売渡請求の要件

また、会社法第175条には、売渡請求の決定に関して以下のように規定されています。ここでは、売渡請求をする場合、対象となる株式の数や請求者の氏名などの情報について、その都度株主総会の決議が必要である旨が示されています。

会社法175条

(売渡しの請求の決定)

株式会社は、前条の規定による定款の定めがある場合において、次条第1項の規定による請求をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。

  • 一 次条第1項の規定による請求をする株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
  • 二 前号の株式を有する者の氏名又は名称
  • 2 前項第2号の者は、同項の株主総会において議決権を行使することができない。ただし、同号の者以外の株主の全部が当該株主総会において議決権を行使することができない場合は、この限りでない。

1-3 売渡請求の際の注意点

条文にも書かれている通り、売渡請求の対象となるのは、相続その他の一般承継により取得した株式であり、譲渡に関して一定の条件が儲けられた譲渡制限株式となります。また、売渡請求は、一般承継のあったことを知った日から1年以内に行わなければならない点にも注意が必要です。

さらに、会社によるこうした自己株式取得は、会社の分配可能額の範囲内でのみ行わなければならないという財源規制もあります。これは、資金的余裕がないにもかかわらず、自己株式を無制限に取得するような事態を防ぐために設けられたもので、自己株式を取得した日における分配可能額が限度となります。

2 非上場企業が株式等売渡請求を行う際に知っておくべきこと

2-1 株式分散の防止に加え税制上のメリットもあり

非上場株式の相続人等に対して売渡請求を行うメリットは、前述の通り、好ましくない株主への株式分散を防ぎ、後継者に経営権を集約できる点にあります。

そしてもう1つ、見逃せないメリットは節税上の効果です。こちらはどちらかと言えば相続人にとってのメリットが大きい話となりますが、非上場企業が自己株式を取得すると、通常はみなし配当課税といって売却した株主側に最大で55%もの税金が課せられることになります。

しかし、会社が行った株式等売渡請求に則って相続後3年10カ月以内に売却すれば、課税額は一律20%程度で済むという特例が設けられています。特例の適用に際しては税務署への届け出が必要になります。

2-2 株主に会社を乗っ取られるリスクも!?

このように、相続人に対する株式等売渡請求ができるように規定しておくことで、望まない株主に株式が分散するのを防ぐことができます。その一方、正当な後継者に対して売渡請求が行われるという事態もあり得るため注意が必要です。

たとえば株式全体の過半数を保有するオーナー経営者が死去した場合、その相続人に対して他の株主が売渡請求を行い、オーナー一族から会社を乗っ取ってしまうというケースが考えられます。こうした事態を防ぐため、あえてオーナーの生前に相続人等に対する売渡請求について定款に定めず、相続開始後に売渡請求について記載するよう規定する。あるいは、オーナー保有以外の株式について議決権を制限するといった対策を講じることもあります。

また、会社による株式買い取り価格に相続人が納得しないケースもあるでしょう。売買価格に関して会社と相続人との協議が整わなければ、裁判にもつれ込むケースもあります。相続人に対する株式等売渡請求は、基本的に会社側の都合によって行われるものであるため、最終的に買取価格が非常に高くなってしまうリスクもあります。

3 まとめ

非上場企業において株式の分散を防ぐために、相続人等に対する売渡請求について規定しておくことは非常に重要と言えます。しかし、実行にあたってはいくつかの注意点があるうえ、会社乗っ取りのリスクなど思わぬ落とし穴も潜んでいます。

事業承継におけるこうした問題は非常に複雑で、世の中の多くの経営者が頭を悩ませています。知識と経験が豊富な専門家のサポートの下、しっかりとした相続、事業承継対策を練ることをお勧めいたします

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記事協力

幸田博人

1982年一橋大学経済学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)入行、みずほ証券総合企画部長等を経て、2009年より執行役員、常務執行役員企画グループ長、国内営業部門長を経て、2016年より代表取締役副社長、2018年6月みずほ証券退任。現在は、株式会社イノベーション・インテリジェンス研究所代表取締役社長、リーディング・スキル・テスト株式会社代表取締役社長、一橋大学大学院経営管理研究科客員教授、京都大学経営管理大学院特別教授、SBI大学院大学経営管理研究科教授、株式会社産業革新投資機構社外取締役等を務めている。

主な著書

『プライベート・エクイティ投資の実践』中央経済社(幸田博人 編著)
『日本企業変革のためのコーポレートファイナンス講義』金融財政事情研究会(幸田博人 編著)
『オーナー経営はなぜ強いのか?』中央経済社(藤田勉/幸田博人 著)
『日本経済再生 25年の計』日本経済新聞出版社(池尾和人/幸田博人 編著)

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