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2020年10月8日

相続クーデターによる非上場企業乗っ取りへの対抗策とは

非上場企業の経営者にとって、後継者へのスムーズな事業承継は重大なテーマです。自らの死後、相続によって多くの少数株主が生まれることを防ぐために、相続人等に対する株式売渡請求について定款に規定するケースも多いことでしょう。しかし、一方、それを逆手にとって内部から会社乗っ取りを諮る相続クーデターのリスクも発生します。今回はこの相続クーデターを防ぐ方法について紹介します。

1 非上場株式の分散を防止する「相続人等に対する売渡請求」

誰でも株式市場での売買に参加できる上場企業と違って、非上場企業の株式は経営者の親族や取引先などが保有するケースがほとんどです。信頼できる株主に自社株を保有してもらうことで、経営陣が意思決定をスムーズに行えるという点が、株式公開をしないメリットでもあります。このため、仮に上場の条件が揃っていても、あえて非上場を貫く大企業も存在します。

このように、経営の自由度を重視する非上場企業の経営者にとって悩ましいのが、相続によって株式が分散し、多くの少数株主が生まれてしまう問題です。

何も手を打たなければ、経営者が死亡した場合などは、民法の規定に従って保有していた株式は法定相続人に渡ることになります。そのため、中には経営にとって好ましくない相続人が混じっていたり、事業承継者への経営権の移行がスムーズにいかなくなったりすることも考えられます。

そうした事態を防ぐために、会社法174条には、会社が相続人に対して非上場株式の売渡請求ができるという規定を定款に定められる旨が記されています。

細かい要件やメリット、デメリットなどについては、当サイト内のコラム「非上場株式の分散を防止する方法:相続人等に対する売渡請求について」をご参照いただきたいのですが、要するに会社にとって好ましくない人物が相続によって株主となった場合、その株式を会社が強制的に買い取る制度があるということです。

2 非上場企業における相続クーデターとは

株式売渡請求を行うことによって、会社にとって好ましくない株主が生まれるのを防止できる一方、逆にこの制度を利用されて内部から会社を乗っ取られてしまう相続クーデターのリスクも存在します。

たとえば、ある非上場企業の株主構成が、51%の議決権を持つ経営者と16%の議決権を持つ妻、20%を持つ役員A、13%を持つ役員Bだったとしましょう。経営者が死亡した場合、法定相続人である妻が経営者の持っていた51%を取得し、自らの保有分と加えて67%を持つことになります。

しかしここで、役員AとBが結託して、株式売渡請求の行使を諮るとどうなるでしょうか。株式売渡請求の行使には株主総会の決議が必要と定められていますが、この場合、会社法の定めによって、相続人はたとえ株主であっても議決権を行使することができません。

その結果、残る株主であるAとBによる決議によって、妻が相続した51%の株を会社が買い取る形となります。もし、日ごろからAとBが妻のことを快く思っていない場合、こうしたやり方で支配権を奪い、社内クーデターを成立させることが可能となってしまうのです。

3 相続クーデターに対抗する方法

3-1 種類株式の発行

では、相続クーデターを防ぐために、会社としてはどのような対抗策を取ればよいのでしょうか。

まず、種類株式の発行という方法があります。

たとえば、特定の事項に対する株主総会の決議を拒否できる権利を付与した「拒否権付種類株式」を、相続人に対して発行しておきます。売買請求権決議を拒否できる権利を相続人にあらかじめ与えておくことで、仮に相続人に株主総会での議決権がなくても、相続した株式の売渡を拒否することが可能となります。この拒否権付種類株は、別名「黄金株」とも呼ばれています。

経営者が保有する以外の株式を「取得条項付株式」または「議決権制限株式」にしておく方法もあります。

前者は一定の事由が生じた場合において、会社が取得できるよう定めた株式を指します。たとえば、「相続が発生した場合、親族が相続した株式を会社が買い取る」と定めておくことで、会社による強制的な株式買取が可能になります。

また、後者は経営者が保有する以外の株式の議決権を制限しておくことで、株主総会決議で相続人以外の者が株式を取得するのを防ぐことができます。ただし、これらの手法は株主の合意が必要となるため、簡単にはいかないことも考えられます。

3-2 持ち株会社に経営者の株を保有させる

2つめが、持ち株会社を作って、経営者が保有するすべての株式を持たせる方法です。こうしておけば、仮に経営者が亡くなっても持ち株会社自体に相続が発生しないため、引き続き持ち株会社が経営者の株を保有し続けることになります。

3-3 遺贈により相続の対象から外す

3つめが、後継者に対して株式を「遺贈する」という内容の遺言書を残しておく方法です。

遺贈は相続と違って、法定相続人以外の人物も財産を受け取ることができます。そのため、定款に株式の相続人への売渡請求ができると定めてあっても、遺贈であればその対象とならないのです。この場合、あらかじめ定款に「〇%以上の保有者からの株式の遺贈は、会社が承認したとみなす」といった規定をしておくことを推奨します。

3-4 あえて売渡請求について定めない

あえて定款に相続人に対する売渡請求に関して記載せず、仮に非支配株主に相続が発生した場合は、その都度株式売渡請求について定款に規定するという方法もあります。相続人からの株式買取が終了した後、再び定款を元に戻すことにより、相続クーデターを防ぐことができます。

4 まとめ―相続クーデター対策は総合的な判断を

いったん議決権が分散した後に再集中を図ることは非常に困難です。そのため、会社としてはそもそも少数株主に議決権が分散する前に、予防策を講じておくことが重要です。

ここで紹介した通り、相続クーデター対策にはさまざまな手法がありますが、法務面、税務面、株主との関係等、総合的に考慮して判断することが大切になってきます。

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記事協力

幸田博人

1982年一橋大学経済学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)入行、みずほ証券総合企画部長等を経て、2009年より執行役員、常務執行役員企画グループ長、国内営業部門長を経て、2016年より代表取締役副社長、2018年6月みずほ証券退任。現在は、株式会社イノベーション・インテリジェンス研究所代表取締役社長、リーディング・スキル・テスト株式会社代表取締役社長、一橋大学大学院経営管理研究科客員教授、京都大学経営管理大学院特別教授、SBI大学院大学経営管理研究科教授、株式会社産業革新投資機構社外取締役等を務めている。

主な著書

『プライベート・エクイティ投資の実践』中央経済社(幸田博人 編著)
『日本企業変革のためのコーポレートファイナンス講義』金融財政事情研究会(幸田博人 編著)
『オーナー経営はなぜ強いのか?』中央経済社(藤田勉/幸田博人 著)
『日本経済再生 25年の計』日本経済新聞出版社(池尾和人/幸田博人 編著)

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