はじめに
親や親族が保有している非上場株式について、相続をきっかけに「非上場株式も相続財産になるのか」と、初めて意識する方もいるのではないでしょうか。
非上場株式も、預貯金や不動産、上場株式などと同じように相続財産となり、相続税を計算する際には、その株式の価値を評価する必要があります。
一方、非上場株式には、上場株式のように自由に売買できる市場がありません。そのため、相続税上は一定の評価額が付くにもかかわらず、その価格で簡単に売却できるとは限りません。
特に、経営権を持たない少数株式は、買い手が限られるため、売却が難しい傾向にあります。
そのため、相続税を負担して非上場株式を相続した後、将来、売却したいと考えても、簡単には現金化できないというケースもあります。
では、非上場株式は、そのまま相続するしかないのでしょうか。
相続が発生する前に株式を売却し、現金化しておくことも選択肢の一つです。
本記事では、非上場株式をそのまま相続する場合の注意点を整理したうえで、相続前に非上場株式を売却するという選択肢や、すでに相続した非上場株式を売却する方法について解説します。
1. 非上場株式を相続する場合、株価はどのように評価される?
上場株式であれば、証券取引所で日々取引されているため、取引価格を確認することができます。
一方、非上場株式は、証券取引所で取引されていないため、上場株式のように取引価格を確認することができません。
そこで、非上場株式を相続する場合には、税務上のルールに基づいて株式の価値を評価します。
非上場株式の相続税評価では、会社の規模や財務内容、株主の立場などによって評価方法が異なります。
代表的な評価方法には、類似する上場会社の株価などを参考にする「類似業種比準方式」や、会社の純資産をもとに評価する「純資産価額方式」などがあります。
また、経営への影響力が小さい一定の少数株主については、「配当還元方式」によって評価される場合もあります。
このように、非上場株式には市場で確認できる取引価格がなくても、相続税を計算するための評価額が算出されます。
ここで重要なのは、この「相続税上の評価額」が、そのまま「実際に売却できる価格」になるわけではないという点です。
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2. 非上場株式をそのまま相続する場合の注意点
非上場株式を相続する際には、「相続税をいくら支払うことになるのか」だけでなく、相続した後にその株式をどうするのかについても考えておく必要があります。
特に注意したいのが、相続税上の評価額と、実際にその価格で売却できるかは別の問題だということです。
たとえば、相続税上は一定の価値がある株式として評価され、その評価額を含めて相続税を計算することになります。
しかし、その株式を相続した後に売却しようとしても、相続税上の評価額と同じ価格で売却できるとは限りません。
特に、経営権を持たない少数株式の場合、株主として会社の経営に与えられる影響は限定的です。
そのため、会社の経営権を取得できる株式と比較すると、取得を検討する買い手が限られ、売却先も少なくなる傾向にあります。
さらに、非上場企業の株式には、譲渡制限が設けられているケースが多くあります。
譲渡制限株式の場合、買い手候補が株式の取得を真剣に検討し、売主との間で売買条件について合意したとしても、最終的に会社から株式譲渡の承認を得られなければ、その買い手に株式を譲渡することはできません。
特に、経営に関与していない少数株主が外部の第三者への売却を希望する場合、会社から譲渡を承認されないケースもあります。
買い手候補からすると、株式の価値を検討し、売主との条件交渉などに時間や労力をかけても、株式を取得できない可能性があります。
そのため、こうした手続きや不確実性を考慮して、そもそも非上場企業の少数株式について、買い取りの検討自体を行わない投資家も少なくありません。
このように、非上場企業の少数株式は、経営への影響力が限定的であることに加え、譲渡制限による取得の不確実性もあるため、買い手候補が限られ、売却が難しくなる傾向にあります。
その結果、相続税を負担して非上場株式を相続したものの、将来、売却したいときに、簡単には現金化できないというケースがあります。
したがって、経営に関与する予定がない非上場株式については、「とりあえず相続する」のではなく、相続後にその株式をどうするのかまで含めて検討しておくことが重要です。
【関連】相続財産に「非上場株式・少数株式」が含まれる場合の注意点と対処法【非上場企業の少数株式対策】
3. 非上場株式は相続前に売却・現金化することもできる
非上場株式を相続する予定だからといって、必ず株式のまま相続しなければならないわけではありません。
株式を保有している親や親族が存命のうちに売却し、現金化しておくことも選択肢の一つです。
たとえば、親が経営に関与していない会社の少数株式を保有しており、子どもにもその会社の経営に関与する予定がない場合を考えてみます。
そのまま相続すれば、子どもは非上場企業の少数株式を相続することになります。
一方、相続が発生する前に株式を売却できれば、株式ではなく、売却によって得た現金を含む財産を相続することになります。
ここで大きな違いの一つとなるのが、相続税を支払うための資金です。
現金を相続した場合には、相続した現金の中から相続税の支払いに充てることができます。
一方、非上場株式を相続した場合には、相続税上は財産として評価されるものの、その株式を相続しただけでは手元に現金が入ってくるわけではありません。
そのため、相続税を支払うための現金が不足する場合には、預貯金などの他の相続財産や相続人自身の資金などから、納税資金を確保する必要があります。
しかも、第2章で説明したとおり、非上場株式、特に少数株式は、必要になったときにすぐ売却して現金化できるとは限りません。
この点は、非上場企業の少数株式をそのまま相続するか、相続前に売却しておくかを検討するうえで、重要なポイントの一つです。
また、現金であれば、複数の相続人がいる場合にも遺産分割を行いやすくなるという面があります。
相続人に会社経営に関与する予定がないのであれば、相続が発生する前に非上場株式を売却しておくことは、有力な選択肢の一つといえるでしょう。
4. 非上場株式をどうするかは「相続する前」から考えておく
非上場株式も相続財産となるため、相続が発生すれば、その株式について相続税上の評価を行う必要があります。
しかし、これまで説明してきたとおり、相続税上の評価額が付くことと、その価格で実際に売却できることは別の問題です。
特に、経営権を持たない少数株式は、経営への影響力が限定的であることに加え、譲渡制限による取得の不確実性もあるため、買い手候補が限られ、売却が難しくなる傾向にあります。
そのため、相続人が会社の経営に関与する予定がないのであれば、相続が発生してから考えるのではなく、株主が存命のうちから、保有する非上場株式を将来どうするのかについて検討しておくことが重要です。
そのまま株式として相続することだけでなく、相続が発生する前に株式を売却しておくことも選択肢の一つです。
相続前に売却することができれば、相続人が将来売却しにくい少数株式を引き継ぐことを避けられるだけでなく、相続した現金を相続税の納税資金に充てることもできます。
もちろん、相続前に売却することが、すべてのケースで適しているわけではありません。
株式を売却した場合の税務上の影響や、株式のまま相続した場合の相続税評価に加えて、相続人が今後、株主として会社にどのように関わっていきたいのかという点も含めて検討する必要があります。
たとえば、相続人が会社の経営に関与する予定がある場合や、株主として引き続き会社との関係を持ちたいと考えている場合には、株式のまま相続することも選択肢となります。
一方、相続人が会社の経営に関与する予定がなく、将来的にも株式を保有し続ける必要性が低いのであれば、相続前に売却することも選択肢の一つです。
非上場株式の相続を考える際には、「相続税がいくらになるのか」だけでなく、「今後、株主として会社とどのように関わっていきたいのか」「その株式を将来どうするのか」まで含めて考えておくことが重要です。
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記事協力
幸田博人
1982年一橋大学経済学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)入行、みずほ証券総合企画部長等を経て、2009年より執行役員、常務執行役員企画グループ長、国内営業部門長を経て、2016年より代表取締役副社長、2018年6月みずほ証券退任。現在は、株式会社イノベーション・インテリジェンス研究所代表取締役社長、リーディング・スキル・テスト株式会社代表取締役社長、一橋大学大学院経営管理研究科客員教授、京都大学経営管理大学院特別教授、SBI大学院大学経営管理研究科教授、株式会社産業革新投資機構社外取締役等を務めている。
主な著書
『プライベート・エクイティ投資の実践』中央経済社(幸田博人 編著)
『日本企業変革のためのコーポレートファイナンス講義』金融財政事情研究会(幸田博人 編著)
『オーナー経営はなぜ強いのか?』中央経済社(藤田勉/幸田博人 著)
『日本経済再生 25年の計』日本経済新聞出版社(池尾和人/幸田博人 編著)















